第100回装苑賞公開審査会が開催 須田美咲さん「エアードレーピング」が大賞

  • URLをコピーしました!
Pocket

ファン付きウエアの構造を生かした造形表現を評価

第100回装苑賞公開審査会が2026年6月5日、東京・渋谷の文化学園遠藤記念館大ホールで開かれ、ファン付きウエアの構造を生かした造形表現に取り組んだ須田美咲さんが大賞の装苑賞を受賞した。佳作1位には松村梨沙さん、佳作2位には髙橋百花さんが選ばれた。PR01.特別賞は今野葵さん、NEW ENERGY特別賞は小林士門さんに決まった。Text & Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)

1956年にファッション雑誌「装苑」が創設した装苑賞は、日本初のファッション界の新人賞で、新人デザイナーの登竜門として数多くの著名デザイナーを輩出してきたファッションコンテスト。今回、創設70周年、第100回の節目を迎えた。

公開審査会では、二次審査を経た候補者16人が各3体のコレクションをショー形式で披露。ジュンコ コシノ(JUNKO KOSHINO)のコシノジュンコさん、ソマルタ(SOMARTA)の廣川玉枝さん、メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)の三原康裕さん、アンリアレイジ(ANREALAGE)の森永邦彦さん、ビューティフルピープル(beautiful people)の熊切秀典さん、エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)の宮前義之さん、ミキオサカベ(MIKIOSAKABE)の坂部三樹郎さん、フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)の田中文江さんが審査を行った。

須田美咲さんは「エアードレーピング」で装苑賞を受賞

第100回となる今回、装苑賞に選ばれたのは、「エアードレーピング」をテーマに、空気の力で布の動きやシルエットをコントロールするデザインを制作した須田さん。空気が介在することで衣服の形がどのように変化するのかという疑問から制作を始め、高密度の軽量タフタを縫製し、あえて空気の逃げ道を設けることで、空気の増減がシルエットの変化として現れるようにした。

オレンジの作品は、空気の力で布を持ち上げ、軽やかさや浮遊感を表現。グリーンのワンピースは、立方体に満たされた空気をつぶすように穴を開けてシルエットを造形した。ホワイトのドレスでは、ドーナツ状の立体に二つの結び目を作り、空気を分割することで形を生み出した。膨らんだり、しぼんだり、揺れたり、弾んだりする、着ても見ても楽しい衣服を目指した。

須田さんは2002年、愛知県生まれ。2021年、名古屋モード学園ファッションデザイン学科に入学し、2025年に同校ファッションテクノロジー学科を卒業した。現在は名古屋の繊維会社に勤務している。

「今回は、空気でどう布をデザインするかというところをメインに作りたかったので、パターンは丸と三角と四角しか使っていません。空気だけを使って、どう新しい形を作るかというところの試行錯誤がすごく大変でした」と須田さん。3体の構成については、「似たり寄ったりにならないように、それぞれ1体ずつがメインにもなれるような作品になるように工夫しました」と振り返った。

佳作1位は松村梨沙さん「メタモルフィック・プレゼンス」

佳作1位は、松村梨沙さん(ヴォートレイル ファッション アカデミー在学中)。「メタモルフィック・プレゼンス」をテーマに、変化の激しい現代において、人が環境に順応し続ける姿を「擬態」と捉え、タコを手がかりに制作した。

タコが色や質感、形状、行動を変化させながら周囲の環境に応じて姿を変えることに着目し、擬態している瞬間の輪郭の定まらない流動的なフォルムを、2色や3色の混合フィラメントによる3Dプリントで表現した。布の上に直接3Dプリントを施し、見る角度や光、見る人の位置によって色や印象が変化するテキスタイルを制作。3体それぞれ異なるテキスタイルで構成した。

佳作2位は髙橋百花さん「虫出しの雷」

佳作2位には、髙橋百花さん(ブックオフコーポレーション所属)が選ばれた。春の雷が虫を目覚めさせるとされる「虫出しの雷」という言葉と、江戸時代の番傘から着想を得て、和紙を使った雨具を考案した。

通気性、速乾性、抗菌性、消臭性を備える和紙を絵の具で着色し、こんにゃくのりで柔らかくして防水加工を施した。細かく切った和紙を横糸に、縦糸にはシャーリングゴムを使用。収縮した際に凹凸が出るように引き伸ばしながら一段ずつ手織りで生地を制作し、さらに織ったものを細かく裁断したパッチワーク生地を服のデザインに落とし込んだ。

PR01.特別賞は今野葵さん、NEW ENERGY特別賞は小林士門さん

PR01.特別賞は、「糸が結ぶ世界」をテーマにした今野葵さん(文化服装学院在学中)が受賞した。かつての和装に宿っていた凛とした強さと繊細な美しさを、現代の日常へ引き寄せ、新たな装いとして再構築することを目指した。

制作の核となるのは、一本の糸から始まり、解けば一本の糸に戻ることのできるニット。和装の直線裁ちの構造を取り入れながら、すべて手編みで仕上げ、着付けにおける補正のテクニックをディテールに落とし込んだ。ニット特有の柔らかな風合いによって、体と素材の間に余白を作り、まとう人をより自由で自然体な姿へ導くことを意図した。

NEW ENERGY特別賞は、「ウォール・オブ・マイセルフ」をテーマにした小林士門さん(文化服装学院在学中)が受賞した。街中の汚れた壁やゴミが、時間とともに上書きされながら存在し続ける姿に、出会いや別れを繰り返し、変化していく自分自身を重ねた。熱加工で凹凸のある質感を出し、遮光ネットやエクステなど日常の素材を用いて、上書きされる過程を可視化した。

3体は、街に残される痕跡の異なる状態を表現。蓄積、貼っては剥がされる痕跡、崩れながら上書きされていく変化の過程を、シルエットと素材に落とし込んだ。

審査員が講評 素材、造形、挑戦する姿勢を評価

審査員のコシノジュンコさんは、須田さんの作品について「本当に迫力があって、空気を抜くと小さくなると思うんだけど、舞台効果もあり、存在感もあり、お見事でした」とコメントした。また、候補者全体について「それぞれにオリジナルな試行錯誤をされたと思うんですけれども、やはり独特のもの、誰もやったことのないものに挑戦することが大切」とした上で、松村さんの作品についても「不思議な素材を見事にファッションにされたと思うし、素材というものがすごく重要だなと思います」と話した。

廣川玉枝さんは「素材から一から作り上げていく過程が服から感じ取れて、素晴らしい作品がたくさんあるなと思いました」と振り返った。その中で、受賞作品には「人が着るというところにちゃんと焦点を当てて、軽やかさや柔らかさ、着心地の良さにフォーカスできている」という共通点があったとした。

須田さんについては、数年前からファン付きウエアの構造を研究していたことに触れ、「自分が決めたことを研究して、さらに発展させていくことが素晴らしい。3年前とは全く違う形で、造形とか素材、見え方、そういったところも全く違った表現で挑戦されていて、すごいなと感心しました」と評価した。

三原康裕さんは、須田さんの作品について「すごく大胆に膨らんでいて、ボリューム感に圧倒されて見ていた」としながら、近くで見た時に「それぞれが新しいシルエットを出そうと努力していることが見えたので、勢いだけではない感じがして、すごく良かった」と話した。

松村さんについても「大胆な考え方で、こういうやり方があるんだなと感心した」と評価。須田さんと松村さんの2人について、「新しいことにチャレンジしていこうとしている姿があった」とし、「やっていることの潔さ、大胆な感じに未来を感じた」と語った。

森永邦彦さんは、自身も2023年に空気を使った服に挑戦した経験があることを踏まえ、「造形を作るにあたって、いかに難しいかを分かっている」とした上で、須田さんの作品について「ただ膨らませるだけではなく、ひねりを入れたり、ドレープのようなものを出そうとしたり、全く今までとは違う造形の作り方にチャレンジして、それがすごく軽やかに作品になっていた」と評価した。

「ファッションではないものをファッションに変えていくことは、デザイナーができる力」と話し、今後も取り組みを続けてほしいと期待を寄せた。

佳作の2人について、森永さんは「素材に対して独自のアプローチで、今までのファッションデザイナーが使ってきた素材とは全く違うものを、しっかりファッションにしようと格闘した痕跡が見えました。シルエットと素材のバランスをしっかり考えられて、作られている」と評価した。また、「装苑賞は1人にしかあげられない賞。今日選ばれなかったことが、その人が作っているものが間違っているということではない」と述べ、自分の世界を信じて作り続けてほしいとエールを送った。

熊切秀典さんは、須田さんの作品について「装苑賞らしい作品が獲ったという感じでしたが、技術をちゃんと自分なりのフォルムに置き換えて、自分なりの技術として、もう3年も前からやっていることだということで評価させていただきました」とコメントした。

また、松村さんについては、自身が選んだデザイナーが賞を獲ったことに触れ、「デザイナーがやっていることを頑張れと思って見ている。みんなで新しいものを作り、新しい何かをこの影響で見つけていきたいなと思っています」と話した。

宮前義之さんは「装苑賞は時代を反映している」とし、候補者それぞれが時代の影響を受けながら葛藤している様子が見えたことを興味深く受け止めた。今回の受賞者については「未来に向けて挑戦している姿勢がより強く出ていた」と評価した。

また、デジタルやテクノロジー、AIによってイメージを容易に作ることができる時代に、候補者が素材から根気よく作り上げていた点にも触れ、「よくここまで根気よくやったなということで、非常に感心しました」と話した。

一方で、重量のある作品が多かったことも指摘。「服は着た時に完成する」とした上で、須田さんの作品が登場した時の軽やかさや、着た時の気持ちを想像させる服としての魅力を評価した。

髙橋さんの作品についても、防水加工や新しいフォルムの探求に触れ、「個人的には非常にいいなと思っていて、近くで見ないと分からないところがたくさんある」と話した。最後に、それぞれの作品には次につながるものが宿っていたとし、今後も探求を続けることで日本のファッションがさらに面白くなっていくのではないかと期待を寄せた。

坂部三樹郎さんは、今回は素材に加えてシェイプの面白さが印象的だったと語った。「今までは、マテリアルが考えられているものが多かったんですけど、今回はそれプラス、シェイプがすごく皆さん面白かった」とし、重さや着にくさ、痛さを感じさせる作品があったとしても、シェイプ開発に力を注ぐ候補者が多かったことを評価した。

「シェイプは時代とすごく連動する」とし、「マテリアルからシェイプへ移動しているデザイナーさんが多いというのは興味深い」と述べた。

田中文江さんは「100回という記念すべき装苑賞で、どの作品を見ても力の入った作品が多かった」と話した。技術や完成度に加え、「その人にしかない視点だったり、その人にしかない表現力が大切」とし、「コンテストのためだけに服を作るのではなく、自分の中にある感情だったり、好奇心だったり、違和感だったり、そういったまだ言葉にならない感覚を大切にしてほしい」と呼びかけた。

さらに、「自分にしか生み出せない強さや美しさがきっとある」とし、そうしたものが人の心を動かす力になると語った。コンテスト受賞だけを目的にするのではなく、自分の内側にある感覚を起点に表現を深めてほしいという思いを語った。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!