「DESIGN MUSEUM JAPAN(デザインミュージアムジャパン)展~2025集めてつなごう 日本のデザイン~」が開催。宮前義之さんらが参加

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全国各地の生活文化に根ざした“デザイン”の魅力を掘り起こす「DESIGN MUSEUM JAPAN展2025~集めてつなごう 日本のデザイン~」が、2025年5月15日から25日まで、東京・六本木の国立新美術館で開催されている。NHKプロモーション、日本芸術文化振興会、文化庁が主催し、NHKエデュケーショナルが共催する本展は、NHK番組「デザインミュージアムをデザインする」と連動した取り組みで、会期初日には企画説明とフォトセッションを含むプレス内覧会が行われ、宮前義之さんや宮永愛子さん、五十嵐久枝さん、深澤直人さんらが登場した。Text & Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)

展覧会の背景と構想──「日本全体がデザインミュージアムに」

「DESIGN MUSEUM JAPANは」、「日本にはまだ“デザインミュージアム”が存在しない」という問いから始まったNHKの番組企画「デザインミュージアムをデザインする」(Eテレ、2020年開始)に端を発する。「日本各地に点在する生活文化や民芸、工芸、技術にこそ、世界がまだ気づいていない“デザインの宝物”がある」との視点から、2021年以降、各地でクリエーターたちによるリサーチが続けられてきた。

その成果を紹介する「DESIGN MUSEUM JAPAN展」は2022年にスタートし、翌2023年にはサンパウロ、2024年にはロサンゼルスやロンドンでの海外展開も実現。今回は2024年度にリサーチされた8つのテーマを軸に、展示空間として再構成された。展示監修は野見山桜氏、会場デザインは田根剛氏、グラフィックデザインは岡本健氏が手がける。

8人のクリエーターによる「デザインの宝物」

今回、出展されたのは、8人のクリエーターが全国各地で発見した生活文化に根ざす「デザインの宝物」だ。

菊地敦己(栃木):「ほうろうの生活用品」──明治から続く実用品の造形に、無名の“デザイナー不在”の温かみを見る。

宮永愛子(京都):「ヒラギノフォント」──手描きから始まる明朝体の美しさと、京都の地との深いつながり。

塚本由晴(奈良):「氷室」──古代の氷貯蔵技術に、人と自然が共生するランドスケープの原点を探る。

五十嵐久枝(大阪):「魔法瓶」──ガラス職人の技術と情熱が支えた、天満の地場産業の記憶。

菱川勢一(鳥取):「大漁旗」──漁師を鼓舞する一点物の染物に、魂のデザインを見る。

深澤直人(島根):「石州瓦」──赤茶の屋根がつくる街並みの風景と、その地域の耐候性への知恵。

宮前義之(高知):「街路市」──300年以上続く日曜市に宿る、人と人とをつなぐコミュニケーションのかたち。

佐藤卓(宮崎):「スナック」──西橘通りに見る、場の〈間〉を演出する本能的なデザイン。

いずれも「これもデザイン?」と思わせる日常の営みに根ざしたものでありながら、クリエーターたちの目を通すことで、文化と創造の源泉として再発見されている。

登壇者コメント──「なぜそれを選んだのか」

会見に登壇した4人のクリエーターは、それぞれのリサーチを通じて感じ取った「デザインの本質」について語った。

現代美術作家の宮永愛子さんは、京都で開発された「ヒラギノフォント」の原字をリサーチ。「フォントは普段あまり意識しないものですが、子どもの学校プリントで“見たことのない、読みやすい字”に出合ったことが始まりでした」と語り、見慣れた文字の中に潜む手描きの痕跡や温度を掘り下げた。「デザインは“湿度のない世界”だと思っていたけれど、そこにも作り手の思いや物語が通っていると気づかされました」とし、美術家ならではの視点でフォントの奥行きを提示した。

インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんは、魔法瓶の産地である大阪・天満を訪問。「ガラス職人たちの情熱が詰まった内側の世界に惹かれました」と語り、子どもの頃、魔法瓶の中を覗いて万華鏡のような輝きに心を奪われた原体験が、今回の取材の原動力になったという。「目には見えない内側のデザインが、保温という機能を支えている。それこそが美しい」と、表層に現れない造形の価値に光を当てた。

プロダクトデザイナーの深澤直人さんは、島根県の石州瓦に注目。「日本の屋根瓦の色は、その土地の気候や暮らしと密接に結びついている。石州瓦の赤茶色には、地元の環境に耐え抜く理由と美しさがある」と話す。都市部の無機質なグレーと対比しながら、「地域の屋根の色が景観を形づくる」と説き、瓦を通じて“住まい方のデザイン”を再定義した。また「作る人が減っても、この瓦を残そうとする土地の意志こそが、文化でありデザインの力」とし、持続的な地域性の象徴として石州瓦を捉えていた。

ファッションデザイナーの宮前義之さんは、高知県で300年続く「日曜市」をリサーチ。「はじめは“何がデザインなのか”と戸惑いもありましたが、実際に市を歩いて、人と人との信頼ややり取りに“コミュニケーションのデザイン”があると気づきました」と話す。特に印象的だったのは、目に見えない“心地”──心が動く感覚。「デザインとは形だけではなく、背景にある物語や届ける気持ちに宿るもの。展示という形で表現する難しさもありましたが、“届ける”という視点こそが重要だと再確認しました」と語り、三宅一生さんから受けた言葉を振り返るように、デザインの社会的意義と伝達の視点を重ねていた。

また、宮前さんは「デザインとは何かを常に考え続ける場」として、ミュージアムの必要性にも言及。「デザインは一部の人のものではなく、生活に一番近いもの。教育や社会の中でその向き合い方が変わると、暮らしがもっと豊かになる」と話した。

更に、日曜市のリサーチに加えて、和紙の原料である楮(こうぞ)や漆器文化など、複数の地域文化にも触れたという宮前さん。「具体的に見たものがそのまま形になるとは限らないが、考え方や視点が次につながっていく」と語った。

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