「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」東京展が2月9日から5月30日まで、東京・六本木の国立新美術館で開催されている。1870年に創立されたアメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館は、先史時代から現代まで、5000年以上にわたる世界各地の文化遺産を包括的に所蔵している。「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」は、同館を構成する17部門のうち、ヨーロッパ絵画部門に属する約2500点の所蔵品の中から、日本初公開の46点を含む、主要作品65点を集めたもの。
15世紀の初期ルネサンスの絵画から19世紀のポスト印象派まで、西洋絵画の500年の歴史を彩った巨匠たちの傑作が、一挙来日。フラ・アンジェリコ、ラファエロ、クラーナハ、ティツィアーノ、エル・グレコから、カラヴァッジョ、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、レンブラント、 フェルメール、ルーベンス、ベラスケス、プッサン、ヴァトー、ブーシェ、そしてゴヤ、ターナー、クールベ、マネ、モネ、ルノワール、ドガ、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌまで、時代順に紹介している。Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)すべて「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」東京展プレス内覧会から
第1章 信仰とルネサンス
会場は「信仰とルネサンス」、「絶対主義と啓蒙主義の時代」、「革命と人々のための芸術」の3章で構成されている。
第1章は「信仰とルネサンス」。イタリアのフィレンツェで15世紀初頭に花開き、16世紀にかけてヨーロッパ各地で隆盛したルネサンス文化は、神と信仰を中心とした中世の世界観に対して、それに先立つ古代ギリシア・ローマの人間中心の文化を理想とみなし、その「再生(ルネサンス)」を目指したもの。 中世の絵画では、キリストや聖母は平面的に超然とした姿で描かれ、神性が強調されていたが、ルネサンスの絵画では、古代美術を手本として立体的に人間らしく描写され、 人物を取り巻く空間も、遠近法を用いて奥行きが表現されるようになった。人間味あふれる古代の神々の物語を描いた神話画が、宗教画と並んで絵画の主要ジャンルになったことも、ルネサンス期の特徴になっている。また、ドイツやネーデルラントなど北ヨーロッパでは、 16世紀に宗教改革による聖像礼拝の否定を受けて、宗教画の需要は減り、神話画や肖像画が隆盛した。「信仰とルネサンス」では、イタリアと北方のルネサンスを代表する画家たちの名画17点を展示している。
第2章 絶対主義と啓蒙主義の時代
続く第2章「絶対主義と啓蒙主義の時代」では、君主が主権を掌握する絶対主義体制がヨーロッパ各国で強化された17世紀から、啓蒙思想が隆盛した18世紀にかけての美術を、各国の巨匠たちの名画30点によって紹介している。17世紀初頭、激しい明暗の対比や劇的な構図を特徴とするバロック様式がカトリック世界の中心都市ローマで生まれ、やがてヨーロッパ各地に波及した。ドラマティックなバロック美術は、カトリック教会と専制君主の宮廷という、聖俗2つの権力の誇示のために活用された。カトリック圏のイタリア、スペイン、フランドルでは、信仰心を高揚させる宗教画が制作され、 スペイン国王フェリペ4世の宮廷では、王侯貴族の壮麗な肖像画が盛んに描かれた。 一方、共和国として市民社会をいち早く実現し、プロテスタントを公認宗教としたオランダでは、 自国の豊かな自然を描いた風景画、花や事物を主題とする静物画、市民や農民の日常生活に題材を得た風俗画が、それぞれ独立したジャンルとして発展した。また、太陽王ルイ14世の治世下で、王権を称揚する芸術の創出を目指したフランスでは、美術政策の中枢を担ったアカデミーの理論に基づき、古代とルネサンスの美術を模範とする古典主義様式の絵画が展開された。18世紀初頭、ルイ14世の治世晩年になると、軽やかで優美なロココ様式の絵画が現れ、世紀半ばにかけて流行した。アカデミーの理論で低く位置づけられてきた風俗画・静物画の分野で優れた作品が生まれたことや、女性画家が躍進したことも、この時代のフランス美術の特徴となっている。
第3章 革命と人々のための芸術
最後のセクションとなる第3章は「革命と人々のための芸術」。19世紀はヨーロッパ全土に近代化の波が押し寄せた激動の時代だった。このセクションでは、市民社会の発展を背景にして、絵画に数々の革新をもたらした19世紀の画家たちの名画18点を展覧している。1789年に勃発したフランス革命は、フランスのみならず、全ヨーロッパの近代社会成立の転換点となり、その波は、各国で次々と民衆が蜂起した1848年に頂点に達した。社会の急速な変化を受け、美術にも新たな潮流が次々と現れる。19世紀前半には、普遍的な理想美を追求するアカデミズムに対して、個人の感性や自由な想像力に基づき、幻想的な風景や物語場面を描くロマン主義が台頭する。そして世紀半ばになると、農民や労働者の生活情景や身近な風景を、理想化せずありのままに描くレアリスム(写実主義)が隆盛した。レアリスムの成果は、近代化が進むパリの都市生活の諸相を描いたマネやドガ、そして1870年代に印象派と呼ばれることになるモネやルノワールの絵画に受け継がれていく。印象派の画家たちは、様々な気象条件の中で、新しいパリの街並みや郊外の風景を観察し、その一瞬の印象を、 純色の絵具と斑点のような筆触で描き留(とど)めようと試みた。1880年代後半になると、セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホなど、ポスト印象派と総称される画家たちが躍進する。彼らの作風はそれぞれに異なるものの、形態の単純化、構図の平面性、原色を多用した鮮烈な色彩表現など、20世紀初頭の前衛芸術の先触れとなる要素を含んでいた。
さらに、東京展だけのデジタル展示企画も2つ登場。展覧会会場の最後には、メトロポリタン美術館のヨーロッパ絵画部門の所蔵品約2500点のデータをビジュアライズした年表「The European Masterpieces Timeline」があり、絵画が制作された年代や手法、地域を世界の歴史とともに時代を追って、プロジェクターで壁面に投影。いつ、どこで、どのように絵画が制作されてきたのか。その長い歴史を理解することが出来る。また、ラ・トゥール 《女占い師》 のフェイスチェンジャー ではカメラが搭載されたサイネージの前に立つと作品の登場人物に自分の顔が合成され、まるで作品に自分が溶け込んだかのような画像が現れる。合成画像はその場で自身のスマートフォンにダウンロードすることも出来る。
「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」東京展
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区六本木7-22-2)
会期:2022年2月9日~5月30日
主催:国立新美術館、メトロポリタン美術館、日本経済新聞社、テレビ東京、BSテレビ東京、TBS、BS-TBS
後 援:米国大使館
開館時間:10:00~18:00(毎週金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日 :火曜日(ただし、5月3日(火・祝)は開館)
問い合わせ:TEL 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
観覧料:一般2100円、大学生1400円、高校生1000円(税込)中学生以下は入場無料※事前予約制(日時指定券)を導入。
展覧会HP:https://met.exhn.jp