第92回装苑賞(THE 92nd SO-EN FASHION AWARD)公開審査会が6月12日、東京・渋谷の文化学園遠藤記念館大ホールで行われ、南方一(みなかたかず)さんが装苑賞を受賞した。Text & Photo:Shinichi Higuchi (樋口真一)
二次審査を経て最終審査に残った候補者14組が各3体の作品をミニコレクション形式で披露する公開審査会で装苑賞に選ばれたのは、人間が昔から互いに助け合い生活してきた動物たちと共存し、これからも地球上で暮らしていきたいという思いや未来へのメッセージを込め、糸やひもで編み上げることで人と動物の結びつきを表現したという南方さんの作品。
象、フラミンゴ、羊をモチーフにした、ユーモラスでわかりやすいデザインとともに、デザインと素材・色のバランスの良さと、エレガントなムードなどが評価された。
「不安で一杯、のどががらがらです」という南方さんは「猫などを飼っていたし、釣りもしていたので、その愛(いと)おしさや自分のみになるものと共存することをみんなに伝えたかったので、ぱっと見て『フラミンゴや』『象や羊や』と言ってもらえるような作品にしました。津森千里先生には会う素材を使うようにアドバイスしてもらい感謝しています。装苑賞を取った南方はすごく面白いことをして有名になって行っているなと思ってもらえるようなデザイナーになりたい」と喜びを語った。
また、装苑賞佳作一位は車やバイクのカスタムカルチャーからインスピレーションを得た宇津木陽多さんが受賞した。車のバンパーなどに使われる素材を使い、研磨や塗装などを一から施した赤のドレープドレスとアルカンターラ社のレザーを使用した黒のワンピースを組み合わせ、車やカスタム、ファッションが大好き、装苑賞を楽しみたいという気持ちを表現したという。
装苑賞佳作二位は、ラブ&ピースという意味を込め、袖やスカートにレーザーカットしたハート柄のフェイクレザーを使った伊藤里緒さんが受賞した。
また、rooms賞はSNSが普及する現代に蔓延(まんえん)する誰かに認められたいという承認欲求をテーマに、言葉をデータ化してラインと文字をレーザーカットして、チュールに手作業で貼り付け、ハッシュタグで全体を埋め尽くしたドレスをデザインした千田拓哉さんに決まった。
これまでとは違い、80年代のミュグレーなども彷彿させるユーモラスでパワフルなデザインやモチーフを使いながら、どこかかわいいカルチャーなど日本らしさもある作品が上位を占めた今回の装苑賞。審査員を務める高島一精さんは「難しい審査だった。それぞれの作品が素材にこっていて、細かい作業をしていたし、3点のバランスもよく安定していた。だが、今の若い人が何を考え、何を世の中に訴えたいのかというエネルギーを感じるものが少なかった。その中で、装苑賞と佳作一位の作品は僕たちプロではできない、何かを感じた」とコメント。
岩谷俊和さんは「装苑賞の作品はとてもすばらしかった。こういうコンテストではもう少しこうしたらと思うことが多いのですが、それが一切無く、バランスがよく、シューズもよかった」と評価した。
コシノジュンコさんは「とてもチャーミング。ユーモアのあるものは少しゲテモノっぽく見えることも多いのですが、素材やエレガントさがすごくすてきで、着られるものになっていました」と話した。
また、津森千里さんは「私の選んだ作品が選ばれて嬉しい。私のところに来るのはユーモアのある変なものが多いので、受け入れられて嬉しかった」。
廣川玉枝さんは「手の込んだ仕事をしているなと思いましたが、コンセプトにとらわれすぎて素材で終わっているものもたくさんありました。装苑賞はマクラメレースというよくある手法を表現にまで落とし込めているところがすばらしかった」と語った。
一方、皆川明さんは「装苑賞はモチーフのユーモアもさることながら、仕事の厚みがすばらしかった。素材にこだわり、デザインに寄せたことが完成度につながった。宇津木さんの作品も布ではないものであれほど柔らかいドレープを表現できているのは執着のある仕事をしたからだと思いました」とした上で、「私が見たいと思ったのは今若い人たちが社会の動きや、デザインとクリエーションの流れをどう見ているのかということ。自分とは違う、若い人のピリピリとしびれるような感覚や思いのこもった作品を期待しています。これから100回を迎える装苑賞には、これまで全くなかった世界観を生み出すことが求められていると思います」と話した。
三原康裕さんも「今回はすごくよかった。南方さんが選ばれた時のざわめき、賛否両論あるところがよかったと思う。若い人たちには僕たちプロができないものを作ってほしい。今の価値観にないもの、今は美しく見えなくても自分たちの作る美しさを見せてほしい」とするとともに、「装苑賞はわかりやすかったし、一見幼稚なようで面倒な作業をよくがんばったと思う。宇津木君はもっと驚かせてもよかった。テクニックはこれから身につければいいのだから、もっと大きなものを作ってほしい」と激励した。