
ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック・パラリンピック競技大会に出場するTEAM JAPAN(チームジャパン)の選手が表彰式や公式行事、選手村などで着用する「TEAM JAPANオフィシャルスポーツウエア」の発表会が、2025年10月29日、東京・JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE14階の岸清一メモリアルルームで開かれた。日本オリンピック委員会(JOC)、日本パラスポーツ協会 日本パラリンピック委員会(JPC)と、ゴールドパートナーであるアシックスが共同で実施したもので、ウエアのコンセプトやデザイン、機能の説明に加え、選手による着用披露とトークセッションが行われた。Text & Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)
今回のTEAM JAPANオフィシャルスポーツウエアは、パリ2024オリンピック・パラリンピックで採用した「チームジャパンレッド」「サンライズレッド」のカラーコンセプトを引き継ぎながら、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック・パラリンピックの環境に合わせて新たに開発された。東京2020大会やパリ2024大会に続き、アシックスが制作した。会場ではTEAM JAPAN公式服装(式典服)も展示された。
ミラノ・コルティナ2026 TEAM JAPANオフィシャルスポーツウエア発表会の概要

発表会には、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックTEAM JAPAN団長の伊東秀仁氏、副団長の原田雅彦氏、ミラノ・コルティナ2026冬季パラリンピック日本代表選手団副団長の荒井秀樹氏が登壇。アシックスからは常務執行役員の甲田知子氏、アパレル・エクィップメント統括部開発部マネジャーの大堀亮氏が出席し、TEAM JAPANオフィシャルスポーツウエアの狙いや開発のポイントを説明した。
選手は、スピードスケートの森重航選手、アイスホッケーの浮田瑠衣選手と細山田茜選手、パラクロスカントリースキーの森宏明選手、パラアルペンスキー男子の鈴木猛史選手が、実際に公式ウエアを着用して登場。さらにアシックス応援パートナーとして、パリ2024夏季オリンピックでフェンシング女子サーブル団体銅メダルを獲得し旗手も務めた江村美咲選手、ゴールボール男子日本代表として同大会の金メダル獲得に貢献した宮食行次選手も参加し、夏季大会から冬季大会へとつながるメッセージを送った。
「共に一歩を踏み出す勇気」――TEAM JAPANコンセプトと団長あいさつ

冒頭あいさつで伊東団長は、パリ2024大会で掲げたコンセプト「一歩踏み出す勇気」に触れつつ、「夏冬一体で臨むミラノ・コルティナ2026オリンピック・パラリンピックでは、その思いをさらに発展させ、『共に一歩を踏み出す勇気』をコンセプトにしています」と説明した。
そして、「挑戦のフィールドはそれぞれ違っても、声援と勇気を送り、そしてお互いをたたえる。努力する喜びを分かち合えば、すべての人がチームジャパンの一員になれる」と語り、TEAM JAPANオフィシャルスポーツウエアが、アスリートに日本代表としての誇りを与えるだけでなく、観る人、応援する人にとっても自らの可能性を信じる力になる存在であると強調した。

荒井副団長は、パラリンピックが大切にする四つの価値(勇気、強い意志、インスピレーション、公平)に触れながら、「誰にもフィットする着心地、美しいシルエット、誰にでも操作しやすい構造は、パラリンピアンが活躍するために不可欠な要素」とコメント。「さまざまな障害の違いに配慮した工夫のおかげで、安心して着用し、競技に向かっていけると実感しています。と同じユニフォームを着て、練習を重ね、成果を最大限に発揮していきたい」と語った。
アシックスが担う「コンディショニング/サステナビリティ/ダイバーシティ」

アシックスの甲田氏は、東京2020大会、パリ2024大会の経験を踏まえつつ、「パフォーマンスとサステナビリティの両立というテーマがあり、夏から冬へつなぐ思いが込められていますと説明した。
ウエア開発の柱となったのは、パリ大会に続く三つのテーマ、「コンディショニング」「サステナビリティ」「ダイバーシティ」だ。

大堀氏は、まずコンディショニングについて、「ミラノ・コルティナの屋外の厳しい気候環境および室内環境を考慮して開発しました。さまざまな環境下でのコンディショニングをサポートするため、インドア用とアウトドア用の2種類のコーディネートパターンを生み出しました」と説明した。
サステナビリティの面では、プロダクトのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量の可視化と削減に継続的に取り組み、今回もGRS認証のリサイクル糸やPFASフリーの撥水剤・防水ラミネートなどを採用。提携サプライヤーの廃材をファスナー引き手に再利用するなど、細部まで環境配慮を反映させた。
また、2024年に発売した「ニンバス ミライ」を対象に回収したシューズ約70足分を、今大会用シューズ「ゲル・トラブコ GTX」のシュータンの一部に再利用するなど、フットウエアにもリサイクルの取り組みを広げている。
ダイバーシティについては、冬季環境下でも操作しやすいパーツ、誰にでも使いやすい構造、車いすアスリートのニーズに合わせたアイテム追加などを通じて、「すべてのアスリートが使いやすいデザイン」を目指したという。
冬季環境に対応したインドア用・アウトドア用ウエアの機能とデザイン


アウトドア用のアウタージャケットには、防水透湿素材を採用。縫い目の内側にシームテープ加工を施し、雨雪の侵入を防ぐ構造とした。ジャケット内側には、アシックス ボディサーモマッピングをベースに、適切な位置に保温材を配置したバッフル構造を採用し、動きを妨げにくくしながらオーバーヒートを抑制。氷点下を想定した環境でも衣服内を快適に保てるよう設計されている。
インドアジャケットには、特殊なマルチレイヤー組織による素材を用いて、適度な保温性と通気性を両立。過去大会モデルよりも生地をやや厚くしつつ、通気性を向上させることで、室内外の寒暖差が大きい会場でも快適な着心地を目指した。
パラアルペンスキーの鈴木猛史選手が着用した車いすユーザー向けアイテムでは、袖部分を汚れや摩擦から守るアームカバー、乗り降りや移動を想定したポケット位置や角度など、日常の動作に寄り添った工夫が盛り込まれている。
チームジャパンレッドとサンライズレッド、流水文様が象徴する“夏冬一体”の世界観

デザイン面では、日本の伝統的な流水文様から着想を得たオリジナルグラフィック「RYUSUI」を採用。絶えず流れ続ける水に、「努力を続けていれば前に進める」という意味を込め、選手の芯の強さや挑戦し続ける姿勢を表現した。
カラーリングは、パリ2024大会で採用されたチームジャパンブランドのキーカラー「チームジャパンレッド」と「サンライズレッド」のグラデーションを継承。夏季と冬季で同じカラーコンセプトを共有することで、「夏冬一体のTEAM JAPAN」を視覚的にも示している。このグラフィックやカラーはオフィシャルライセンス商品にも展開され、サポーターも同じ世界観を身にまとって応援できるようにする。
選手が語る着心地と大会への意気込み

ウエアを着用した選手たちは、それぞれの競技や日常の習慣を交えながら、着心地や機能性、デザインへの印象を語った。
アイスホッケー日本代表の浮田瑠衣選手は、「サンライズレッドの色合いやグラデーションは、袖を通すとテンションが上がるのはもちろん、見るだけでも胸が高鳴ります」と話し、「アイスホッケーは“氷上の格闘技”と言われている競技なので、より一層気合が入ります」と笑顔を見せた。

同じくアイスホッケーの細山田茜選手は、「今着ているのがインドア用のウェアなんですが、とても軽くて着心地がいいです。選手村ではチームメイトと楽しく過ごしながら、リラックスしてコンディションを整えて試合に臨みたいです」とコメント。世代交代が進んだチームについては、「皆さん緊張していると思うんですけれども、チーム一丸となってコミュニケーションを取りながら過ごしています。『楽しみにしてるよ』『頑張ってね』『応援してるよ』という言葉をたくさんいただいています。シンプルな言葉なんですけれども、とても心に響きますし、力にもなるので、これまでのメンバーの思いも含めて、今の新チームでしっかり戦っていきたいと思います」と意気込みを語った。

パラクロスカントリースキーの森宏明選手は、「しっかりあたたかいですし、このイベントが始まる前からずっと着ているんですけど、このまま着て帰っちゃいたいぐらい、本当に着心地がいいです。レース前のアップでも使える」と評価。ポケットの多さにも触れ、「冬は特に荷物が多くなるので、バッグが必要ないぐらいたくさんあって、機能性が高いなと感じました。僕が好きなのは和菓子とかなんですけど、羊羹などそういうものをいつもポケットに忍ばせていて、エネルギー切れになる前に補給しています。人よりも食べるのが好きなので、たくさん入れておこうかなと思っています。もしかしたら膨れているかもしれませんが、そこも注目かなと思っています」とクロスカントリースキーならではのエピソードを披露し会場を和ませた。

パラアルペンスキーの鈴木猛史選手は、アームカバーの利便性を強調。「車いすユーザーは、袖をすごく気にしながら移動をしています。お気に入りの洋服や公式のウェアを汚してはいけないというプレッシャーがあるので、慎重に動いたりするんですけれども、こうしたアームカバーがあると、気にせずに移動ができるな、急いで選手村の食堂に行けるなと思います」と話し、車いすアスリートの視点からダイバーシティへの配慮を評価した。

スピードスケートの森重航選手は、前回の北京大会で、地元から届いた応援メッセージボードの写真が大きな支えになったと振り返り、「コロナ禍ということもあって、地元の皆さんとなかなか会えなかったんですけれども、レースの前日にボードにたくさんのメッセージを書いて、その写真を送ってくれました。メッセージを見ると緊張がほぐれて、すごくパワーになりました」と、応援がパフォーマンスに直結することを強調した。
応援チャームとメッセージでパリからミラノ・コルティナへ思いをバトン
発表会では、TEAM JAPANの応援施策として、公式ウエアの一部素材を再利用した応援チャームづくりの取り組みも紹介された。ポディウムジャケット(インドア)の胸部分に用いられているチロルテープを再利用し、選手への思いを込めたチャームを制作。今後開催されるワークショップでは、一般の人々もこのチャームを手作りし、応援の気持ちを託せるようにするという。
ステージ上では、江村美咲選手と宮食行次選手が、それぞれチャームとメッセージを森重選手と森選手に贈った。

江村選手は「自分らしく、全力で輝いてください。応援しています」と書いたボードを掲げ、「大会が近づくにつれて、いろいろなところに繊細というか敏感になっていきます。例えば、海外のライバル選手のやっていることのほうがいいんじゃないか、自分のやっていることはこれでいいのかなど、すごくいろいろなことを考えてしまうと思います。でも、正解はないと思っていますし、それぞれにそれぞれの強みがあるはずです。自分らしさを信じて、本当に最高の舞台で一番輝いてほしいとエールを送った。

宮食選手は、ゴールボール男子チームの合言葉「小さい事は気にするな!!ワカチコ、ワカチコ」を紹介。「これはある芸人さんの言葉で、ご存じだと思うんですが、この言葉はゴールボール男子チームのキーフレーズのようになっていて、みんなでずっと言っていました。国際大会の期間は、ちょっとしたトラブルから大きなトラブルまで本当にいろいろ起こりますが、そうしたことにメンタルを左右されてしまうと結果につながらない。だからトラブルが起きた時には、みんなで脇をパタパタしながら『ワカチコ、ワカチコ』とやると、すごく笑顔になれた。それが僕たちの金メダルにつながったのかなと思っています。皆さんも、何かトラブルが起こった時にはあの芸人さんの顔を思い出して、少し笑って乗り越えていけるんじゃないかなと思い、この言葉を書かせていただきました」とメッセージを託した。


チャームを受け取った森重選手は、「パリからミラノへ、このチャームとともに思いをつなげていって、レースでは自分らしく滑れればいいなと思っています」とコメント。森選手も「すごくリラックスして本番に臨める気持ちになりました。肩の力がすごく抜けたなと思います」と語り、応援の思いを力に変える決意を示した。


終盤には、各選手が大会への意気込みを語った。浮田選手は「チーム目標はメダル獲得なので、それに向けて全力で、すべてを出し切って戦いたい。そして、たくさんの方々の応援をパワーに変えて、少しでもチームに貢献できるよう取り組んでいきたいと思います」とコメント。鈴木選手は「次こそは、このかっこいいウエアを着て表彰台に上がりたいと思っています。そのために、全力で頑張るというよりも、全力でアルペンスキーを楽しんでいきたいと思います」と決意を示した。
発表会の締めくくりでは、原田副団長が「共に一歩を踏み出す勇気」を胸に、チームジャパン一丸となって新たな高みを目指すと宣言。1956年コルチナ・ダンペッツォ大会で、日本人選手がアルペン競技で新たな扉を開いた歴史にも触れながら、「スポーツをきっかけに日本中がつながり、ワンチームとなることを目指したい」と語った。
TEAM JAPAN公式服装(式典服)も展示

会場ではTEAM JAPAN公式服装(式典服)のジャケット、モックネックニット、ボトムも展示された。コンセプトは誇り(日本代表としての品格)、情熱(勇気、希望、憧れ)、一体感(共に目標へと向かい進む一体感と共有感)。車いす用パターンのパンツも用意している。
ジャケットとボトムにはActive Woolジャージ(ポリエステル88パーセント、ウール12パーセント)、モックネックニットにはサスティナブル天竺ニット(アセテート85パーセント、ウール15パーセント)を使用。肌面に吸湿性、保湿性に優れたウールを、外側には速乾性に優れたポリエステルを組み合わせた二重構造のジャージ素材「NIKKEActive Wool」は吸湿性に優れた快適性を備えている。衣服内の水蒸気を素早く吸収拡散して蒸れや汗冷えを解消し、天然のエアコンの様に湿度と温度をコントロールする。サスティナブル天竺ニットはEASTMAN社のNaiaというサスティナブルにこだわったジアセテートとウールをブレンドしたニット編地を使用している。














