
「第21回ベストデビュタント賞発表・授賞式」(日本メンズファッション協会主催)が2025年3月14日、東京都渋谷区の東急プラザ原宿「ハラカド」で開かれた。ベストデビュタント賞は、新人クリエーターやアーティストの中から、この1年の活動が社会や文化、業界に影響を与え、一般にも支持され、将来を期待される人物を各部門で選ぶ賞。今回は、ハルノブムラタのデザイナー村田晴信さん(ファッション部門)、声優・アーティストの伊達さゆりさん(アーティスト部門)、画家の真田将太朗さん(映像・グラフィック・アート部門)、建築家の工藤浩平さん(空間・インテリアデザイン部門)が受賞した。Text & Photo: Shinichi Higuchi(樋口真一)
ベストデビュタント賞は例年、年末に「ベストドレッサー賞」と併催していたが、21回目の今回は、地域と民間企業が連携し、ファッション、アート、音楽、フード、カルチャーなど都内の複数エリアのイベントを集結させた東京クリエイティブサロンの原宿イベントプログラムの一環として、単独で開かれた。

授賞式で、村田さんは、「今回このような評価をいただき、すごく嬉しく思っています。ブランドを始めたきっかけは海外ブランドへの憧れであり、それが大きな原動力になりました。この評価を通じて、次の世代や業界全体を盛り上げていければと思っています。私自身にとっても意味のある賞であり、これを励みに引き続き頑張っていきたいです」とあいさつした。

伊達さんは「素晴らしい賞をいただき、とても嬉しく、光栄に思います。本当にありがとうございます。私が声優を志したきっかけは、ラブライブ!シリーズとの出会いでした。何気ない日常が、この作品に触れたことで一変し、毎日が輝き始めました。そして、私もラブライブ!シリーズの声優になりたいと夢見るようになりました。
一般公募オーディションの存在を知り、挑戦した結果、合格をいただき、今は個人としても、グループ活動としても夢を追い続けています。これからも声優として、自分の声を通じて、かつての自分のように誰かの日常を少しでも輝かせることができるよう、日々精進してまいります」と笑顔で語った。

真田さんは「3年半ほど前のコロナ禍に、表現の道で生きていくことを決意しました。大きな挑戦でしたが、自分の作品を信じ、ひたすら描き続けてきた結果、ようやく周囲から期待されていることを実感し、それを誇りに思えるようになりました。今回の受賞は、これまでの努力へのご褒美だと感じています。これを機に、さらに自分の表現を深め、邁進していきたいです」と語った。

工藤さんは「このような素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。私は東京を拠点にしながら、秋田との2拠点で設計活動を行っています。東京と地方ではできることが異なると感じており、その違いを生かしながら、歴史や文化をつなぐ設計を目指しています。
また、教育にも力を入れており、現在は五つの大学で教えています。建築を通じて町や未来を考えることを大切にし、実践と教育を横断しながら、文化や歴史を築いていければと思っています」と話した。

授賞式後には、トークショーが行われた。

仕事を選んだきっかけについて、村田さんは「私がファッションに興味を持ったきっかけは、公立の学校に通い、制服ではなく私服で過ごしていたことです。姉の影響もあり、ファッション誌に触れる機会が多く、幼い頃から自分で服を選ぶ楽しさを知りました。
服を選ぶことで、その日の気分や自分自身の在り方が変わると感じ、それが人生を豊かにする原体験となりました。当時は自分で服を作ることは考えていませんでしたが、高校生の頃に初めて服作りを体験し、『自分にもこんな素敵なものが作れるんだ』と実感したことが、ファッションデザイナーを目指す最初のきっかけとなりました。
最初は身近なファッションへの憧れから始まり、次第にパリやミラノのコレクションの世界に関心が移りました。そして、実際に留学し、海外で仕事を経験しました。そこで感じたのは、世界には高いレベルのクリエーターが集まっている一方で、日本の素材や文化、考え方が十分に通用するということです。
現在は、自分のブランドを国内で確立し、海外展開を進めることを長期的な目標としています。海外での経験があるからこそ、日本に戻り、このプロジェクトに取り組めているのだと実感しています」と話した。

伊達さんは「私が声優を目指したきっかけは、ラブライブ!シリーズに登場するスクールアイドルたちに憧れたことです。彼女たちはもがきながらも青春を楽しみ、毎日を輝かせている姿が印象的でした。
小学生の高学年の頃、クラスでアニメやボーカロイドが流行っていて、友人に勧められてラブライブ!シリーズを観ました。当時は退屈に感じていた日常が、この作品に出会ったことで一変し、高校生になったらこんなふうに輝けるのかなと夢を見るようになりました。家で彼女たちの歌を歌ったりするうちに、いつしか『ラブライブ!シリーズの声優になりたい』という夢を抱くようになりました。
高校生のとき、シリーズ初の一般公募オーディションとして『ラブライブ!スーパースター!!』の開催が発表されました。その知らせを聞いた瞬間、『絶対に挑戦したい、輝きたい!』という強い気持ちが湧き、オーディションを受けました。合格してからは、声優として活動しながら、この夢を追い続けています。
ラブライブ!シリーズのキャッチコピーは『みんなで叶える物語』です。今回の素晴らしい賞をいただくことができたのも、応援してくださるファンの皆さんや家族、日々支えてくれる周りの方々のおかげだと思っています。本当に嬉しく、光栄です」と改めて振り返った。

真田さんは「小さい頃から絵を描き続けていたので、いつ絵画に興味を持ったのかははっきり覚えていません。ただ、地元の兵庫県西宮市で育ち、実家の向かいに住んでいたおじさんが犬を飼っていました。その犬の絵を鉛筆で描き、頼まれてもいないのに、おじさんの家のポストに何度も投函していました。名前を書いていなかったので、最初は誰が入れているのかわからなかったみたいです。でも、あるときバレてしまって(笑)。そのとき初めて、おじさんが趣味で油絵を描いていることを知りました。
そこからおじさんの家に遊びに行くようになり、油絵の描き方を教えてもらいました。それがきっかけで、本格的に作品としての絵を描くようになりました。描いた絵を地元の歯科医院に持って行き、飾ってもらったこともあります。今振り返ると、そうした経験の積み重ねが今の自分につながっているのかなと思います。
まだ学生ですが、これからますます世界に挑戦したいと思っています。自分の好きなことを突き詰める中で、悔しい思いやつらい経験もありましたが、それを乗り越えていくことで自分の世界が広がっていきました。そうした経験を何度も繰り返してきたので、これからも挑戦を続けていけば、さらに面白い景色が見えてくるのではないかと期待しています」
と話した。

工藤さんは「最初は国立高専で土木を専攻していました。土木は安心・安全を重視し、決められたものを作る分野ですが、建築は機能性を兼ね備えつつも答えが一つではなく、空間を創り出す可能性があると感じ、建築に進むことを決めました。
理系の大学に編入して学ぶうちに、建築の評価は人によって異なることが面白いと感じるようになりました。ナンバーワンにはなれなくても、誰かにとってのオンリーワンになれる。それぞれの時代や状況に応じて建築を考えればよいのだと気づきました。
日本では建築はエンジニアリングの側面が強いですが、世界的には総合芸術や社会的アートとして捉えられています。そこで、未来の建築技術を学びたいと考え、美術系の建築を学びながら、師匠である妹島和世さんのもとで学ぶことになりました。彼女は世界で活躍していますが、私は現場で建築を形にする仕事をしたいと思っています。
東日本大震災では、家や街が失われる不安定な状況を目の当たりにしました。震災復興のまちづくりに5年間関わる中で、建築が何をできるのかを考え続けました。建築家には、かっこいい建築を作るだけでなく、目の前の切実な状況に向き合い、それを形にしていく役割があると実感しました。
現在は東京と秋田を拠点に、能登にも足を運びながら活動しています。場所を変えながら、その地域ごとにできることを模索するのが自分の仕事だと考えています。
日本は世界的にも独自の建築文化を持ち、プリツカー賞を受賞した日本人も多いです。世界に日本の建築を広めるには、日本から発信するだけでなく、海外の人に実際に訪れてもらい、日本の建築を体験してもらうことが重要だと思います」と述べた。

また、若い世代へのメッセージを聞かれ、村田さんは「学生の頃から、パリのコレクションに憧れ、ランバンで働きたい、世界的なブランドのデザイナーになりたいと本気で考えていました。就職課にもそのまま伝えたのですが、『何を言っているんだ』と言われました。
当時はまったく現実味のない話で、自分でも想像できない夢のようなものでした。しかし、留学の機会を得て海外に行くと、『十分に通用する』と肌で感じることができました。実際に向こうで仕事をすることもできたので、最初はありえないと思っていたことでも、意外と実現できるものなのだと実感しました。
大きな夢を掲げ、それに向かって努力することは大切だと思います。たとえ最終的に実現しなくても、そのプロセス自体に大きな意味がある。そうした姿勢で挑戦する人が増えれば、もっと良い未来が生まれるのではないかと感じています」とエールを送った。

伊達さんは「私は一人では何もできない人間なので、今こうして声優として活動できているのも、応援してくださる皆さんや家族、近くで支えてくれるマネージャーさんなど、多くの方のおかげだと感じています。だからこそ、日々感謝の気持ちを大切にしたいと思っています。
皆さんの支えがあることで、私の日常にも変化が生まれ、それを身をもって実感しています。だからこそ、『ありがとう』という言葉をきちんと口に出すことは、とても大切だと感じています。
また、私自身も作品が大好きで、今もその気持ちは変わりません。ただ、もっと上を目指そうとすると、自分に自信を持てなくなることや、『私なんて…』と思ってしまう瞬間もあります。でも、『好き』という気持ちがあるなら、それは本物だと思うので、その気持ちを大事にしながらこれからも頑張っていきたいです。
私もまだまだ勉強中ですが、皆さんと一緒に成長していけたらと思っています」と答えた。
真田さんは「表現において自分が今できることは限られています。しかし、その表現を期待してくれる人が必ずいます。その期待にどう応え、さらに期待を超えるものを作り出していけるかを考え続け、ひたすら打ち込むことで、未来が開けてきたと実感しています。自分のできることを信じ、期待してくれる人の存在を大切にしながら、諦めずに挑戦し続けてほしいと思います」とコメント。
工藤さんは「今の若い人たちは、すぐに答えを求めがちで、『こうだからこうでいい』と考え、可能性を狭めてしまうことがあるように感じます。
だからこそ、分からないことに挑戦し、実際にやってみることが大切だと思います。そして、続けることも重要です。挑戦を続けると、必ず失敗もありますが、そこから学びや気づきが得られる。その積み重ねが成長につながります。これは、私が建築を教えるときにも常に伝えていることです。
すぐに正解を探そうとするのではなく、『答えが見つからないからこそ面白い』ということを、もっと若い世代に伝えていきたいです。そして、その楽しさを一人ではなく、誰かと共有しながら考えていくことこそ、クリエイティブの本質なのではないかと思います。そうした考えを伝えていけたらと思っています」と語った。
