デザイナー山地正倫周と山地りえこによるリンシュウ(RYNSHU)は2025年春夏ニューヨークファッションウィーク初日の2024年9月6日、ニューヨークのHIGHLINE SRAGESで2025年春夏コレクションを発表した。テーマは「Turn of DESTINY」。Photos: Courtesy of RYNSHU
同ブランドはリリースで以下のように書いている。
RYNSHU
2025 SPRING/SUMMER NEW YORK COLLECTION
【Turn of Destiny】
デザイナー山地正倫周・りえこによる2025年RYNSHU春夏コレクションは、ニューヨーク・ファッションウィークにて初めての発表となる。
運命の巡り合わせが紡ぐ、新たな未来
男はある夢を見た。澄みきった青い空に、緑豊かな山々。そして、そこに大きな黒い龍が泳ぐように翔んでいた。初めて見る夢だが、妙に印象に残ったまま仕事に向かう。
デスクの上には、1通の手紙が届いていた。
「あなたをニューヨークに招待します。ニューヨークシティバレエのガラパーティーで、すべてのダンサーに、あなたが創る美しく素晴らしい、唯一無二の黒のスタイルを着せたいのです。お会いできるのを楽しみにしています。」
それはキャロライン・ニューハウス(コンデナスト創業者夫人)からの手紙だった。パリでの活動は7年目を迎えていた。予想外の渡米だったが、何かに導かれるように旅立った。
男は全身黒の装いで、エセックスハウスにいた。関係者やダンサーが自分の創った服を纏い、堂々と美しい佇まいを見せている。その姿に誇らしげな気持ちが湧く。彼らが後にパリのホテルリッツで、自分のコレクションのランウェイを歩くことになるとは、その時はまだ知る由もなかった。
男はキャロライン夫人の邸宅に招かれ、そこで目にした光景に目を疑った。眼下に広がるセントラルパークの上空に、黒い龍のような大きな雲が、波打つように現れたのだ。その瞬間、男は確信した。「また必ずニューヨークに来ることになるだろう」。
2024年、男は空港に降り立った。全身黒の装いで。あの時と同じエネルギッシュな風が吹き抜けた。すると、美しい黒「Neo-Black」のシルクストレッチダブルクレープで仕立てたドレープを揺らし、シックなロングジャケットをさらりと羽織った紳士がこちらに向かってくる。シャープなM字の切り込みが入った変形ショールカラーはユニークで、何とも言えぬ色香漂う透け感のあるオーガンジーのシャツと、裾から覗くパンツには黒いファブリックテープで形づくられた薔薇が縫いつけられており、凛として且つ威厳を漂わせている。「ようこそ、友よ。」一瞬目が合ったかと思うと、男にはそう聞こえた気がした。
マンハッタンの街が近づく。絶えず動き続けるこの街の熱気を感じる。ホテルに着くと、ドアマンが微笑み、「その服、いいね」と親指を立てた。Rのロゴアイコンが立体的に織られたふくれジャガードの黒白ジャケットとパンツは、ストレッチが効いて機能的で、特にパンツのフロント釦は比翼仕立てでベルトが不要なため、スタイリッシュで動きやすく、気に入っている。
早々に街に繰り出すと、慌ただしく行き交う人々と街の音に胸が騒ぐ。コツコツとヒールを鳴らし、颯爽と歩く女性が纏う白のロングジャケットは、上品な艶コーティング生地が罅割れのように加工され、都会的で凛とした雰囲気。
大胆な裾のカッティングや尖ったショルダーはロックで力強く、ジップのディテールがモードな着こなしを引き立てる。予約したレストランへと急ぐ。老舗の趣ある入口が何やら賑やかだ。黒ラメのミニギンガムジャガードのジャケットは、夜へと誘うこの時間の街に華やかに、軽やかに煌めいて、若い男性の笑顔を微かに照らし、隣に寄り添う女性を見つめる。彼女は、内に淡いピンクを秘めた光沢のある白のドレスを纏い、その高揚感で頬を染めている。
宴を終えた友人たちが集う。白黒のフワリと風になびくフリンジが手作業で繊細に縫い付けられたシャツやジャケットは、自由に自分らしく生きるこの街の人々そのものだ。不思議と幸福感に満たされ店を後にする。一つ先の角を曲がればホテルが近い。前を歩く女性がこちらを振り向き、また歩き出す。螺旋が絡むような躍動感あるグラフィック柄の刺繍が施された黒いドレスは、くり貫かれた生地の間から覗くシルクシフォンの透け感が街の灯りと重なり、エキゾチックだ。
女性は小さな本屋へと入っていく。気づけばホテルを過ぎていた。せっかくだからと本屋に入る。古い小説や図鑑、地図など、年季の入った本がズラリと並んでいる。内装も然り、この街と共に時代を生き抜いてきた歴史を感じる。
紳士が本棚に手を高く伸ばし、黒い革のカバーがかかった本を取ろうとしている。一緒に本を引き抜くと、紳士はその本を私に手渡した。「あなたに。」上質なコットン生地にハンドメイドで丁寧に縫われた植物柄の総刺繍が品よく、シックな黒のクチュールジャケットに、黒のスワロフスキーが散りばめられ、ミステリアスに輝いている。美しく絶妙なシルエットは洗練されていて、研ぎ澄まされたテーラリングに目を奪われる。ハーフパンツの片側にはロングプリーツがあしらわれ、迫力が一層増している。
一瞬だが、サングラスの奥に優しく光る瞳が見て取れた。紳士はふっと微笑んで、店の奥へと消えていった。
本を開いてみると、そこにはただ一言、
「The New Story」
ページをめくると、自分の名前が書かれていた。さらにページをめくると、すべて白紙だった。驚きで言葉が出ない。しかし、それと同時に胸が高鳴った。まるで恋が始まるかのように。この本に何が綴られるかは、自分次第ということか。
運命の連鎖が、新しい物語を次々と紡ぎ出すように。
力強く、たくましく、自分らしく。アイデンティティーと向き合い、進化していく。
この街には、底知れぬ魅力とパワーが溢れているに違いない。
男は本を手に店を出ると、一歩前に踏み出した。
また、エネルギッシュな風が吹き抜けた。