ゴールドウインが構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン™(Brewed Protein™)繊維」を使用した2023秋冬コレクション発表会を開催

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ゴールドウインは3月24日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン™(Brewed Protein™)繊維」を使用した2023秋冬コレクションの発表会を開催した。バイオベンチャーのスパイバー(Spiber)と2015年から共同開発に取り組んできたもの。これまでも様々な製品を発表してきたが、タイ・ラヨン県にあるプラントの本格稼働にともない大規模な量産・販売体制が整った。発表会では、ゴールドウインの渡辺貴生社長、スパイバーの取締役兼代表執行役である関山和秀さんによるプレゼンテーションと、2人に、ファッションデザイナーの中里唯馬さん、慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授、デポルターレ パートナーズ(Deportare Partners)代表でゴールドウインの社外取締役を務める為末大さんを加えたトークセッションが行われた。Text & Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)

プレゼンテーションで関山さんは、共同開発のプロセスから長期的な展望として考える循環システムの構築、ブリュード・プロテイン™の大量生産が可能となったタイのプラントまで、開発の進捗状況を説明。「これまではすべて山形県鶴岡市にあるパイロットスケールのプラントで生産してきたため、作れる量が限られ、コストダウンも難しかったが、タイのプラントが昨年から生産を開始し、本格的な商業生産ができるフェイズに入った。最近では、マスカラなどアパレル以外でも使用されている。ようやくスタートラインに立ったところ。これからの展開を楽しみにしている」などと語った。

トークセッションでは、為末さんがファシリテーターを務め、ブリュード・プロテイン™を中心にサステナブルを軸にした様々な話題を展開した。

この中で、「恐らくブリュード・プロテイン™を最も触っているデザイナーの1人だと思います」という中里さんは「2019年にテスト段階の素材のハギレを分けてもらったとき、直感的に何か違うぞ、と思いました。光沢感がポリエステルやシルクとは違う。当時はまだフィラメント糸で光る感じでしたし、糸も縮むものでしたが、縮むという性質がユニークで、魅せられてしまいました。のめり込んでしまい、沼にはまった感じで、それ以来、数年間実験を続けています。この素材は、ある意味でこれから人類が何をまとうべきなのかという、大きな問いをぶつけてきてくれているような気がして。どんな形、デザインを与えていったらいいのか、想像をかき立てられる素材だと思います」とコメント。

「縮むという特性を1つの動力と考え、布が動く、糸が動くことを活かして服が創れないのか。ちょっと飛んだ話になってしまいますが、服は針と糸を使い、同じ手法で作り続けられていることを超えた、新しい概念を創り出すのではないか。糸が動くということから、そういうワクワクする何かが生まれるのではないかと考えています。もちろん、それ以外にも重要なポイントはあるのですが。私の中では、それがフックとなって、平面の布が縮みながら立体を生み出していくような、全然違う形、装いが生まれてくるんじゃないかと思っています」などと話した。

関山さんは「ゴミにならず、作ったものが資源になる。自然界では当たり前のことを自然から勉強して、人間のものづくりにも生態系で行われているような概念や仕組みを取り入れていくことでつながっていく。そういう意味で重要なツールになると思う」と強調するとともに、製品化までの苦労について、「たくさんありすぎて(笑)。例えば、作る過程で微生物の生産性だけを考えればいいというものじゃないんです。産業化するためには材料としての機能はもちろんコストも考えなければならない。そのためには高い生産性で微生物に作らせることが必要ですが、アミノ酸の配列を変化させていくと、これは作れない、これはすごく作れるという違いが出てくる。しかも、それを加工するときにはこの配列だと糸にならない、糸になっても物性が出せないとか。すべての工程で、制約を満たせる、一定の条件をクリアできるスーパーエリートみたいな配列を生み出さなければ実用化できません。でも、どういうパラメータをどういじったらいいのか、わかっていないんです。だから、データをゼロからすべての工程で取っていかないとデザインができない。それをゼロからやろうとすると20年ぐらいかかってしまうんです」と説明。

「かなり近い将来、最高級のカシミアと同レベルの素材を生み出し、同水準のコストにできると考えています。普及させ、使ってもらうことで、本当にいい素材だということを知ってもらい、そこから規模が増えれば更にコストも下げられる。いい循環に入ってくれれば、10年以内にはみなさんが普通に買える素材として成立するところまで確実に行けると思っています」と述べた。

また、渡辺社長は「最初に作ったものは水に弱く、新しい分子を設計しなければスポーツブランドの素材としては使えないということが早い段階でわかりましたが、問題を解決していけばものづくりとコストのバランスがあってくるのではないかと考えました。最初は糸も何グラム何億円というレベルで大変なことになってしまうと話していましたが、年間7500万トン作られているという合成繊維の1割ぐらいをブリュード・プロテイン™に置き換えることができれば、数10兆円のマーケットができる、10年ぐらいの単位でコストもあってくるんじゃないかと思って取り組んできました」。

宮田教授は「未来から逆算するとブリュード・プロテイン™が一定の割合以上なることが必要になるはず。それに対して社会がどう支援していくのか。社会の仕組み全体でどう支えていくのかを考えるべきなのかなと思います」などと語った。

最後に行われた渡辺社長によるプレゼンテーションでは、「スポーツアパレルビジネスの中心であるアウトドアスポーツアパレル業界で、本当の意味でサステナビリティを実現するための最も重要なテクノロジーではないかと考えています。2023年度は恐らく240トン、2024年度は500トン、フルスケールで回ってくると思っています。自然を回復していくことが求められていると思うし、ブリュード・プロテイン™によって産業というものを地球規模で運用するようなデザインをしていくことがゴールドウインの使命であると考えています」など、アウトドアスポーツアパレル業界におけるリュード・プロテイン™素材の可能性に改めて言及。「今回のコレクションは数1000着程度の販売を計画していて、その原料は既に出来上がっています。今後、数年にわたって数万着程度のできるような見通しができているので期待してほしい」とコメントした。

その上で、ゴールドウインが展開するゴールドウイン(Goldwin)、ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)など5つのブランドの代表製品を発表。会場では、映像とともに、アウトドアのジャケットから、フリース、パンツ、フットウェアまで、ブランドのシンボリックな商品をブリュード・プロテイン™に置き換え、アップデートしたコレクションの一部を展示し、紹介した。

ゴールドウインブランドでは、ブランドのオリジンであるスキーウエアをルーツに持つ「クロスフィールド 3L ジャケット(Cross-Field 3L Jacket)」をブリュード・プロテイン™で制作。ミニマルで洗練されたデザインに落とし込んだ。

ザ・ノース・フェイスは昨年デビュー30周年を迎えた同ブランドを象徴する「ヌプシ ジャケット(Nuptse Jacket)」と、アウトドア用ダウンパーカの原型ともいえる名作を現代にアップデートしたザ・ノース・フェイス パープルレーベル(THE NORTH FACE PURPLE LABEL)の「シエラパーカ(Sierra Parka)」を紹介。他にも、ブランドを代表するダウンウエアやフットウェアまで、様々なコレクションを発表する予定だという。

ナナミカ(nanamica)はクラシックな仕立てとディティールに機能性を付加した『バルマカーンコート(Balmacaan Coat)』を、ウールリッチ(WOOLRICH)は1972年にデビューしたブランドのアイコンであるアークティックパーカでブリュード・プロテイン™を採用し、アップデートした、「フューチャー アークティックパーカ(Future Arctic Parka)」をそれぞれ展示した。

さらに、今年9月上旬をめどに、東京・丸の内の丸ビルに、プロジェクトの製品を一堂に集めたポップアップストアをオープンすることや、日本だけでなくゴールドウインやナナミカの直営店のあるアメリカやドイツ、中国をはじめ、イギリス、フランス、香港などでの販売も計画しているなど、グローバルでのグローバルでの販売も予定していることなども発表。

渡辺社長は「今回のプロジェクトを契機にプレイアース2030で掲げた環境負荷低減素材の導入を更に加速させたい。2030年までに製品材料の廃棄をゼロにするとともに、今回のブランド以外のブランドも含めて、すべての商品の90パーセントを環境負荷低減素材で作り、そのうち10パーセントをブリュード・プロテイン™に置き換えたい。この取り組みが世界の暮らしを大きく変革させるテクノロジーになると信じている。今後もスパイバーとの共同開発を加速させていきたい」と強調した。

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