
荻野いづみさんがクリエイティブ・ディレクターを務めるアンテプリマ(ANTEPRIMA)は2026年3月14日、東京・渋谷の国立代々木競技場第一体育館で開催された「第42回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2026 SPRING/SUMMER」に初参加した。Text & Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)
1993年にスタートし、ミラノファッションウィーク(ミラノコレクション)に公式参加するなど国際的に展開してきた同ブランド。「Smart, Precious with Love」をコンセプトに、時代を超えて受け継がれるエレガンスを提案。進化する現代社会や次世代を見据えたラグジュアリースタイルを発信してきた。
今回のSPECIAL FASHION SHOW STAGEでは、JO1の川尻蓮さんをシークレットゲストに迎えたほか、俳優の西垣匠さん、話題の長浜広奈さんらが登場。さらに、モデルのせいらさん、安斉星来さん、櫻坂46の田村保乃さん、そしてフィナーレには池田エライザさんが登場し、東京ガールズコレクションならではの多彩なキャスティングとともに、ブランドの新たな魅力を来場者にアピールした。
荻野いづみインタビュー TGC参加の理由と2026年春夏の背景
――日本でのショーは初めてになりますか。
荻野いづみ
そうですね。東京ガールズコレクションのような大きな規模のショーは、今回が初めてになります。
――今回は東京ガールズコレクションから強いオファーを受けて参加されたと伺っていますが。
荻野いづみ
ご招待いただき、本当にうれしく思っています。光栄なお話をいただき、参加を決めました。
――ミラノファッションウィークからまだ10日ほど。パリファッションウィークも終わったばかりで、Rakuten Fashion Week Tokyoも始まります。帰国したばかりという、お忙しい時期だと思いますが、今回オファーを受けられた理由は。
荻野いづみ
やはり今、日本ではワイヤーバッグがおかげさまで非常にご好評をいただいていて、ワイヤーバッグをご購入いただいているお客様が、今日の来場者の中心ではないかと思っています。
将来的にアンテプリマのコアであるウエアのお客様になる方たちにコレクションを見ていただきたいという思いがありました。ブランドとして洋服も展開していることを知っていただく、良い機会になるのではないかと。
日本では「洋服もやっていたのですか」と言われることも多いのですが、本来アンテプリマはウエアからスタートしたブランドだということを、若い世代の方々にも知っていただけたらと思い、今回参加を決めました。
バッグの先にある“ウエアのアンテプリマ”を若い世代へ

――実際に東京ガールズコレクションに参加し、ショーを行ってみた感想を教えてください。
荻野いづみ
ショーを通して、よりリアリティを感じることができました。ユニセックスの表現も、もっと広げていけるのではないかと感じています。
今回登場した川尻蓮さんや西垣匠さんといった男性2人のアウトフィット(スタイリング)からも、学ぶものが多かったです。
――ショーはどちらでご覧になりましたか。
荻野いづみ
会場で実際に拝見していました。隣に座られた方がワイヤーバッグを持っていらして、とてもうれしく感じました。
――ミラノでは世界中のジャーナリストやバイヤー、セレブリティが来場しますが、今回のショーの来場者は一般の女性が中心です。来場者の反応についてどう思いましたか。手応えはいかがでしたか。
荻野いづみ
率直に言うと、アンテプリマのショーは少し静かすぎたかもしれないと感じました。ただ、会場から「きれい」といった声も聞こえてきて、手応えはあったのではないかと思っています。
ミラノで積み重ねた28年 公式カレンダー参加の重み
――ミラノでショーを始められてから、どのくらいになりますか。
荻野いづみ
28年ほどになります。
――もうすぐ30年ですね。
荻野いづみ
ブランド自体は30年を超えていますが、ミラノコレクションでカメラ・ナツィオナーレ・デラ・モーダ・イタリアーナ(イタリアファッション評議会)の審査を経て、公式カレンダーに参加してからは28年になります。
2026年春夏は岩崎貴宏とのコラボレーション 反射と工事現場のモチーフを表現

――今回発表した2026年春夏コレクションは、昨年ミラノファッションウィークで発表されてから半年ほど経っています。ミラノでは約30ルックを発表されていたと思いますが、今回のショーでは10体に絞られていました。そのセレクションのポイントを教えてください。
荻野いづみ
事前に出演される方々のリストをいただいていたので、それぞれの体型や雰囲気に合わせて、ブランド側から似合うものを提案しました。その中から、出演者ご自身が着たいと思うものを選んでいただいています。結果的に、良いバランスで構成できたのではないかと思っています。
――2026年春夏コレクションについて教えてください。
荻野いづみ
アンテプリマではここ数シーズン、日本人の現代アーティストとのコラボレーションを継続しています。今回は、ヴェネツィア・ビエンナーレに参加したこともある岩崎貴宏さんのアートコンセプトをベースにしたコレクションです。
――デザインのポイントについては。
荻野いづみ
彼の作品は、日常の中で見落とされがちなものから、異なる次元の表現を生み出す点に特徴があります。儚さの中にある強さといった感覚も重要な要素です。
また、リフレクション(反射)の表現を取り入れ、ハンドバッグにその要素を反映させたり、作品のモチーフをプリントとして落とし込み、ニットに織り込んでいます。
さらに、彼が好む工事現場というモチーフも取り入れました。ミラノでのショーでは、石を敷き詰め、水たまりを設けるなど、工事現場を思わせる演出を行っています。そこには、新しいものが生まれる場としての意味を重ねています。
ルックでは、工事現場で使われるネットを着想源にしたニットも展開しました。今回は白を中心に構成していますが、ミラノではオレンジのネットをモチーフにしたルックも披露しています。
音楽にも工事現場の音を取り入れるなど、空間全体でコンセプトを表現しました。
映像演出でアートの世界観を補強

――会場で最初に流れた映像も印象的でした。
荻野いづみ
今回は演出を手がけた若槻善雄さんに、アートとの結びつきをどう表現するかを相談しました。ルック数が10体と限られているため、服だけで強く打ち出すのが難しい部分もあり、映像によって岩崎さんの世界観を構築できないかとお願いしたんです。
その結果、期待以上の形で表現していただき、とてもありがたく感じています。若槻さんは国際的なショーも数多く手がけている方なので、安心してお任せすることができました。
池田エライザのラストルックに込めた“スポーティーエレガント”
――ミラノでは世界のトップモデルを起用され、コレクションはレディースだったと思いますが、今回は男性モデルから池田エライザさんまで、幅広いキャスティングでした。実際にショーを行ってみていかがでしたか。
荻野いづみ
とても面白かったですし、リアリティがあってよかったと感じています。
――また、今回ラストに登場した池田エライザさんのルックでは、スポーティーな要素を取り入れていたのが印象的でした。その意図について教えてください。
荻野いづみ
まず、池田エライザさんにはピンクが似合うと感じたのが一つあります。その上で、スポーティーとエレガントを掛け合わせた“スポーティーエレガント”は、ブランドの重要なテーマの一つでもあります。
合わせていたワイヤーバッグはリフレクションをテーマにしたもので、今回のコレクションの核となる要素です。ヴェネツィア・ビエンナーレで岩崎さんが建築物を反転させた作品から着想を得て制作しています。
ラストでは、そのコンセプトを象徴するルックとして、池田エライザさんに色違いのワイヤーバッグをかけていただきました。
アートとの関わりとヴェネツィア・ビエンナーレへの思い
――アートとの関りということでは、以前、六本木アートナイトで荻野さんをお見かけしました。オープニングセレモニーにもいらしていましたね。
荻野いづみ
前職時代、40年ほど前にブランドとしてアートに深く関わるようになった頃から、自然と私自身もアートに触れる機会が増えていきました。30年ほど前からはヴェネツィア・ビエンナーレにも通うようになり、継続的に見続けています。2年に一度開催される、現代アートのオリンピックとも言える存在だと思います。
そして今回、光栄なことに、5月に開催されるヴェネツィア・ビエンナーレの日本館の代表発起人を務めることになりました。
今回ガールズコレクションのオファーを受けた背景にも、そうしたアートとの関係があります。今後もアンテプリマとしてアーティストとのコラボレーションを続けていきたいと考えており、その姿勢を示す意味でも、この機会は重要だと感じました。ガールズコレクションに参加することで、アーティストの方々にも安心してコラボレーションを受けていただけるのではないかと考え、参加を決めました。
東京でのショー開催への思いと、ミラノ継続の理由
――日本について伺います。近年の東京ガールズコレクションではナオキタキザワの滝沢直樹さんが招待参加し、Rakuten Fashion Week Tokyoでも、津森千里さんやby Rでのアニエスベー、ポール・スミスなど、国内外の著名ブランドによる東京での発表が続いています。こうした流れの中で、東京でのショー開催についてはどのようにお考えですか。
荻野いづみ
実現したいという思いはあります。ただ、その前にフラッグシップショップの出店を優先したいと考えています。現在、物件を探しているところです。
――今後もミラノファッションウィークでの発表を続けていくお考えでしょうか。
荻野いづみ
長年続けてきたこともあり、ミラノでの発表はやはり重要だと考えています。ショーのスケジュールは日本のように自由に設定できるものではなく、カレンダーは主催側によって管理され、1週間の中で1時間ごとに枠が組まれています。
そうした中で、20年ほど活動を続けた頃、当時カメラ・ナツィオナーレ・デラ・モーダ・イタリアーナの会長だったマリオ・ボゼッリ(Mario Boselli)から評価していただき、「いづみ、よくやったね。バースデープレゼント」と、より良いスロット(時間帯)をいただくことができました。現在はプラダのショーの前にあたるスロットで、非常に価値の高いポジションです。
このようなスロットは多くのブランドが望むもので、簡単に得られるものではありません。実際、ここに至るまでには20年かかっています。初期の頃は来場者が少ない時間帯や、会期の最後で人が減ってしまう日程も経験してきました。
そうした積み重ねを踏まえると、ミラノでの発表は外せないものだと感じています。
日本でのフラッグシップ出店や展示も視野に
――ブランドとしても約30年の歴史を重ねられています。日本でも、コシノヒロコさんやハナエ・モリさんの展覧会が予定されていますが、今後の展覧会などの取り組みについてはどのようにお考えですか。
荻野いづみ
そうした展開はぜひ実現したいと考えています。現代アーティストとのコラボレーションを継続し、ヴェネツィア・ビエンナーレの活動にも関わっている中で、その流れを形にしたいという思いがあります。
これまで田島美加さんや加藤泉さん、先日まで展覧会を開催していた宮永愛子さん、そして今回の岩崎貴宏さんなど、さまざまなアーティストと取り組んできました。今後のコラボレーションもすでにいくつか決まっています。
そうしたコラボレーションによるプロダクトとアート作品を一体で展示し、アーティストやコレクター、アンテプリマのファンの方々にもお越しいただける場をつくりたいと考えています。
――日本市場や日本のファッション文化については、どのように見ていらっしゃいますか。
荻野いづみ
世界情勢が不安定になると、ファッションやアートといった分野は影響を受けやすく、まず縮小してしまう傾向があります。その点については、やや懸念を抱いています。
また、エネルギー価格の動向や為替の影響もあり、日本円がさらに下落していくと、国内でラグジュアリー商品がこれまでのように受け入れられにくくなる可能性もあると感じています。
ミラノ新拠点の始動と、伊勢丹新宿店・和光での展開

――今後のコレクションや活動について、現時点で考えていることがあれば教えてください。
荻野いづみ
まず今月、ミラノのボルゴ・スペッソ通り23番地にショールームをオープンします。スピガ通りとモンテ・ナポレオーネ通りの間に位置する場所で、そこを拠点に新たな取り組みを進めていく予定です。
このスペースは、サローネ・デル・モービレの期間などに合わせて、外部にも開いていきたいと考えています。いわば“国際交流”の場のような位置づけで活用していくイメージです。
例えば今回は、イッセイ ミヤケでの経験を持ち、現在は家具制作にも取り組んでいるクリエイターの方を紹介し、その作品を展示する予定です。また、映像作家による作品展示も行い、ミラノ・サローネを盛り上げる一助になればと考えています。
規模としては小さいものですが、そうした活動を通じて、継続的に発信していきたいと思っています。
――先ほど若い世代にもアンテプリマの服を見てもらいたいというお話がありましたが、日本での今後の取り組みについてはどのようにお考えですか。
荻野いづみ
日本では現在、フラッグシップショップの出店を視野に入れながら、各地でエキシビションも展開していきたいと考えています。
これまでも展示会には多くの方に来場いただいていますが、今後はさらに新しい層へアプローチしていきたいと思っています。例えば、秋には宮永愛子さんとの取り組みを予定しており、銀座の和光での展示も計画しています。地下の杉本博司ギャラリーを会場に、これまでとは異なる層の来場を促したいと考えています。
また、直近では4月12日から伊勢丹新宿店本館1階「ザ・ステージ」で、岩崎貴宏さんとのコラボレーションによるコレクションを展開予定です。このスペースは限られたブランドのみが使用できる場所でもあり、今回の展開は非常に意義のある機会だと感じています。










出演者一覧
川尻蓮(JO1)
せいら
安斉星来
雑賀サクラ
月足天音(FRUITS ZIPPER)
本田紗来
西垣匠
長浜広奈
田村保乃(櫻坂46)
池田エライザ
