
日本メンズファッション協会が主催する「第54回ベストドレッサー賞」の発表と授賞式が2025年11月26日、東京都渋谷区のセルリアンタワー東急ホテルで開かれ、新しい学校のリーダーズ(ATARASHII GAKKO!)のミジュ(MIZYU)さん、リン(RIN)さん、スズカ(SUZUKA)さん、カノン(KANON)さんや、檀れいさん、本田響矢さんらが登場した。Text & Photo : Shinichi Higuchi(樋口真一)

「ベストドレッサー賞」は、政治、経済、学術、文化、芸能、スポーツなど各分野で時代をリードする著名人に贈られるもの。
今年は、吉野家ホールディングス会長の河村泰貴さん(政治・経済部門)、京都大学名誉教授で京都大学経営管理大学院客員教授の鎌田浩毅さん(学術・文化部門)、俳優の檀れいさん(芸能・スポーツ部門)、俳優の本田響矢さん(芸能・スポーツ部門)、ダンスボーカルユニットの新しい学校のリーダーズ(インターナショナル部門)が受賞した。
「第54回ベストドレッサー賞」インターナショナル部門 新しい学校のリーダーズ(ATARASHII GAKKO!)

インターナショナル部門には、世界を舞台に活躍するパフォーマンスグループ「新しい学校のリーダーズ(ATARASHII GAKKO!)」が選ばれた。セーラー服を着て、マイクを片手に一心不乱に踊り、世界最大級のフェスティバルで大トリを務めるまでになった4人。振り付けも自分たちで考えるというパワフルなパフォーマンス同様、ルールや型を理解しつつも“そこからはみ出す”4者4様のファッション、その自由で個性的なスタイルが評価された。
スズカ(SUZUKA)さんは「インターナショナル部門として受賞できたこと、本当に光栄に思っており、胸がいっぱいです」とあいさつ。当日の真っ青なセーラー服については、「いつもの自分たちなんですけれども、この真っ青に染まったセーラー服は、私たちが“青春日本代表”と自称している中で、青春の色に染め上げたものです。今年で結成10周年となりますので、私たちがさらに一歩を踏み出す姿を表現させていただきました。」と説明した。
セーラー服での受賞について、スズカさんは「セーラー服を着ているので若いと思われがちですが、中学2年生や高校2年生くらいの頃からスタートして、今は成人を超え、いまだに“青春日本代表”として万歳しております」と笑顔を見せた。
この日のハイソックスには、前には「はみ出していく」という言葉が書かれていた。「後ろにもメッセージが入っていて、脱不寛容社会です。この靴下は、結成当初にデザインしたものなんですけれども、少し強めの言葉かもしれませんが、より自由に、個性や自分らしさがはみ出せる社会をつくっていこうという、私たちなりのメッセージを込めました」と語り、アイデンティティも示した。

海外での活動については、「アメリカのレーベルと契約してからは、本当に“半分・半分”と言っていいくらいです。去年はワールドツアーで27か所を回り、ライブの本数や場所でいえば、日本よりも海外のほうが多い状況でした。本当に大きなチャンスが舞い降りてきて、それをガッシリとつかませていただきました」と活動の広がりを紹介した。
10周年を終え、今後の展望についてスズカさんは、「新たな段階に足を踏み入れないといけないな、と思っています。
10周年を迎えて、私たちが“生まれ持った個性”や“はみ出していく”というメッセージを言い続けてきてよかったな、と感じていますが、その次のテーマというか、世界、地球を舞台にすることを踏まえれば、新しいメッセージがあるんじゃないか、とも思っています。目の前のこと一つひとつと向き合っていけば、きっとそのメッセージと出会えるのではないか、と思っています」と語った。

また、囲み取材では、4人全員で質問に答えた。改めて受賞の感想を聞かれると、カノン(KANON)さんが「結成十周年になりますが、セーラー服を着て、個性・自由・はみ出していくという言葉をずっと言い続けてきました。心の奥の部分は何も変わらずにやってきたので、表彰していただけて、とても嬉しいです」と話し、4人の変わらぬ姿勢を示した。
セーラー服の衣装で活動しながら受賞したことについては、メンバー全員が「想像していなかったですね」と声を揃えた。スズカさんは、「結成当時は学生だったので、等身大を表現するためにセーラー服を着ていました。ただ、20歳を超えて海外進出するようになり、日本のカルチャーを象徴できるという意味でも、セーラー服を着る意味が世界進出とともに変化し、進化してきました。そういった意味でも、インターナショナル部門でのベストドレッサー賞というのは、私たちらしいのではないかと思いました」と語った。
アメリカと国内の活動の頻度については、リン(RIN)さんが「頻度は特に決まっていなくて、制作をする時やライブをしに行く時に、挑む気持ちでアメリカに飛び立つという形です。主には日本にいるんですけれども、アメリカに限らず、アジアやヨーロッパ、メキシコなど、本当にさまざまな土地に足を運ばせていただいています」と説明した。
入場時の“ユニークな動き”については、リーダーのミジュ(MIZYU)さんが「決めている時もあれば、登場してみて、あ、こういうニュアンスだったんだ。想像と違ったなと感じて、自分たちのフィーリングで生まれる時もあります」と話し、当日の入場については「今日はポーズは事前に決めさせていただいて、歩き方は半分フィーリング、半分決めていました。『ちょっと違ったらやめようね』と言いながら、『いや、違くないかな。行けるかな』と確認して、少し“はみ出させて”いただきました」と振り返った。
10周年を経て今後どの方向に“はみ出していく”のかという問いには、ミジュさんは「これまでの10年間も、はみ出していくと言い続けながら、あえて方向を決めずに走ってきたところがあって、その“目標を決めない”という姿勢がすごく良かったなと自分たちでも思っています。可能性は無限大といいますか、どんなチャンスでも、どの方向へでもつかみに行ける。それが私たちに合っていると感じているので、これからも360度、どの方向にでもチャンスがあれば、そちらにはみ出していきたいと思っています」と4人らしい前向きさを見せた。
「第54回ベストドレッサー賞」芸能・スポーツ部門 檀れいさん(俳優)

芸能・スポーツ部門には、俳優の檀れいさんが選ばれた。宝塚歌劇団で娘役として活躍し、退団後は映画・テレビ・舞台と幅広い分野で輝き続けてきた檀さん。観客を魅了するための衣装選びでは、華やかさとエレガントさを重視し、プライベートではシックな装いを好む。その使い分けやたゆまぬ研さんが評価され、今回の受賞につながった。
壇上で檀さんは、「歴史あるベストドレッサー賞を受賞させていただき、本当に心からうれしく、光栄に思っております」と率直な喜びを語った。授賞式の衣装については、「ブラックのドレスというのは格式が高いものだと思っています。その黒の中にも光り輝くラインストーンを散りばめています。後ろのリボンにも同じようにラインストーンをあしらい、黒ではありますが、より華やかに見えるようにこのドレスを選びました」と話し、クラシックな黒のドレスにエレガントな輝きを加えたポイントを説明した。
ファッションで最も重視している点については、「演じる役や歌などのパフォーマンスをするときに、その場の状況に合い、私が美しく見えるものを選ぶようにしています」と語る。「普段は、とてもシックでシンプルなスタイルです。ベーシックなものをよく着ています。色は黒とかネイビーなど、ベーシックなカラーが多いです。白もよく着ます」と続け、舞台上と日常でのスタイルの違いを明かした。
インタビューでは、「檀さんは朝からパンやヨーグルトのイメージがありますが、朝食はパンなんですよね」と問われる場面もあったが、檀さんは「ご飯です。お米が大好きで、子どもの頃から“お米さえあれば幸せ”という子でした。朝は和食、日本の朝ですね」と笑顔で答え、意外な一面をのぞかせた。
この先どのような俳優を目指すかという質問には、「宝塚を退団して今年でちょうど20年。芸能界に入ってからは主に映像のお仕事を中心にさせていただいてきましたが、宝塚で初舞台を踏んでからは30年以上が経ちました」と振り返り、「歌のお仕事をするようになり、ライブコンサートもさせていただいています。これからは映像だけではなく、もっと広い形で歌ったり踊ったり、宝塚で学んできたこと、芸能界で学んできたことを、より広く皆さまにお届けできたらいいなと思っています」と意欲を語った。
囲み取材では「ベストドレッサー賞は受賞するものではなく、今年はどなたが受賞されるのかなと“見る側”だと思っていましたので、まさか自分が受賞できるとは思っていませんでした」と心境を明かした檀さん。
今後挑戦したいことについては、「今、本当にいろんなことに興味がありまして。お茶文化、茶道の文化だったり、または昨年、NHK・Eテレさんの番組で一年間中国語を勉強させていただいた時など、なぜか大人になってから、もっといろんなことを学びたい、勉強したいという気持ちがたくさん芽生えてきているんです。仕事も大好きなんですけれども、自分自身の“学びたい欲”にも、もっとチャレンジしたい。それがまた何かお仕事につながったら嬉しいなと思います」と、好奇心に満ちた姿勢を見せた。
「第54回ベストドレッサー賞」芸能・スポーツ部門 本田響矢さん(俳優)

芸能・スポーツ部門には、俳優の本田響矢さんが選ばれた。ファッションを深く愛し、端正な佇まいと礼儀正しさを兼ね備えた本田さんは、与えられた役を丁寧に生きる姿勢が評価され、今回の受賞につながった。
本田さんは「まさか、こんなにも歴史ある素晴らしい賞を自分が受賞できるとは思っていなかったので、本当に心の底からうれしく思っていますし、光栄に感じています」と率直な喜びを語った。この日の衣装については、「光沢のあるサテン生地のスーツです。名誉ある賞にふさわしい一着を選んで着ることができたと思っています」と説明した。
ファッションについて問われると、「新品の服も古着も好きなので、そこからいろいろ選んでいます。普段から着心地の良いものを選ぶようにしていて、ドレススタイルでも普段着でも、着心地の良いものを選んでいます」と話し、素材感と心地よさへのこだわりを明かした。
司会者から「靴や服をご自身でメンテナンスされるそうですね」と尋ねられると、「特に革靴は、メンテナンスをしていないと落ち着かないというか、常に足元はきれいにしていたいので、月に1回か、あるいは2カ月に1回くらいはクリームを塗って磨くなどの手入れをしています」と答えた。
今後の方向については「僕は役者という仕事をさせていただいていて、ずっと、見てくださった方の心の中に残り続ける作品をつくれる、そういった作品に携われる役者になりたいと思って続けてきました。今後も、そうした役者になれるよう、努力して精進していきたいと思っています」とコメント。
さらに、この一年を振り返るり、「2025年の始まりから、自分にとって挑戦となる出来事が数多くありました。そのたびに大きな壁を乗り越えてきて、役者人生というよりは僕自身の人生にとってとても大切な一年だったと感じています」と語り、「今年頑張ってきたことや努力してきたことを、来年2026年にしっかり生かせるようにしたい」と意気込んだ。
来年挑戦したいことについては「まだはっきりとは決まっていませんが、今年はドラマと舞台という大きな経験をさせていただきました。来年は映画だったり、それ以外の新しいことにもいろいろ挑戦していきたい」と、役者としての成長に意欲を見せた。
「第54回ベストドレッサー賞」政治・経済部門 河村泰貴さん(吉野家ホールディングス会長)

政治・経済部門には、吉野家ホールディングス会長の河村泰貴さんが選ばれた。アルバイトからキャリアをスタートさせ、現在は従業員2万人以上を率いるグループのトップに上り詰めた河村さん。損得ではなく“善悪”、さらには“美醜”を判断基準に据える経営スタイルでも知られ、その美意識は服装にも表れる。お気に入りのテーラーで仕立てたスーツや、同じモデルを複数所有する革靴など、正統派のダンディズムを貫く姿勢が高く評価された。
河村さんは、「30年以上、牛丼を煮込み、うどんを湯がき、毎日やってまいりました。まさかこのような賞にご縁があるとは夢にも思っておりませんでしたので、本当に場違いな感じがして戸惑っております。大変光栄です」と受賞の喜びを語った。続けて、「従業員、社員のみなさんが喜んでくれるといいなと思います」と、現場で働くスタッフへの思いを口にした。
この日の装いについて尋ねられると、「尊敬する経営者の方に紹介していただいたテーラーで仕立てていただいたものです」と説明。その工房が、19歳の頃に自身が初めてアルバイトをした吉野家と「すぐ近く」にあったといい、「非常に不思議な縁を感じています」と話した。
司会者から「いつもの靴ですよね」と問われると、河村さんは「社員から“会長は靴を一足しか持っていないんじゃないか”と言われるほど。同じモデルを6足持っています」と明かす。「20年ほど直しながら履き続けていて、2日続けて同じ靴は履きません。革底なので張り直しに行ったりしています。百貨店のメンズシューズ売り場に持って行って、メンテナンスをお願いしています。新品のままの一足もありますので、もう革靴を買うことはないかもしれません」と語った。
「第54回ベストドレッサー賞」学術・文化部門 鎌田浩毅さん(地球科学者)

学術・文化部門には、地球科学者の鎌田浩毅さんが選ばれた。南海トラフ巨大地震や富士山噴火の可能性を示し続け、減災の啓発に力を注いできた鎌田さんは、その情報発信の一環としてファッションに目覚めたという。教授時代のボーナスはすべて服に使い、現代アートを取り入れた独自のスタイルを追求してきた“道楽の域”のベストドレッサーであることが受賞の理由となった。
コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)のジャケットとヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)のパンツ、ジャケットの下にはイッセイ ミヤケ(Issey Miyake)をコーディネートしたスタイルで登壇した鎌田さんは「ありがとうございます。本当にうれしいです」とあいさつ。そして、「私の専門は地学ですが、きょうも震度5強の地震がありました。そうしたことを皆さんに伝えたいという思いがあります。これからは“自分の身は自分で守る”という意識を持ってほしい。この受賞を機に、私が訴えている地震や火山への備えが広がればいいなと思っています」と語り、研究者としての使命感をにじませた。
奇抜な印象のある装いについて聞かれると、「学生に受けるんですよね。私の専門である地球科学は、京都大学では当時、ほとんど人気がなかったんです。そこで、毎週違う服を着るようにしたところ、学生が“先生の服が見たい”と授業に来るようになり、出席率も上がりました。自分で言うのも恐縮ですが、“京大で人気ナンバーワンの教授”と呼ばれるようにもなりました」と明かした。
定年を迎えた現在は、「南海トラフ地震の備えなど、社会貢献により力を入れていきたい」と話す。「専門家の間では“5年後から始まる可能性がある”とされており、必ず発生すると考えられています。日本の人口の半数、約6800万人が被災するといわれています」と説明。「一人ひとりが自分の命を自分で守らなければならない」と強調した。「教授時代からずっと伝えてきました。この受賞をきっかけに、私の発信がより注目され、広く伝わるのではないかと感じています。また講義のようになってしまいましたね」と苦笑したが、伝えたい思いは揺るがない。
司会者から「万が一南海トラフ地震が起きた場合でも、そのようなお召し物でいらっしゃるんですね」と問われると、「やっぱりファッションは大事ですよね。元気になれるんです」と即答。「学生も元気になるし、私自身も元気になれる。だからこれは一生のアイテムというか、趣味なんです。私が元気をもらって、それを皆さんに分ける。そのときに地学の知識──南海トラフや富士山の話も一緒に紹介して、とにかく備えてほしい」と語った。
また、囲み取材では、「今回の受賞をいちばん伝えたいのは誰か」という問いに、「大げさに言えば“国民”ですね」と即答。「研究者全体が評価されたとも思っています。より多くの方に科学の大切さを伝えたい」と語った。また、「科学者やビジネスマン、日本の男性にはもっとおしゃれを楽しんでほしい。科学者でもこれぐらいできます。ファッションは世界共通語ですし、科学もそうです。だからこそ、グルメ、ファッション、サイエンス──この三つの楽しさを、もっと多くの方に伝えたいですね」と話した。
第54回ベストドレッサー賞授賞式
























