山岸慎平がデザインするベッドフォード(BED j.w. FORD)は2025年春夏パリメンズコレクション(パリ・メンズ・ファッション・ウィーク)最終日の6月23日、プレゼンテーションとデジタルで2025年春夏コレクションを発表した。Photos: Courtesy of BED j.w. FORD
同ブランドはリリースで今回のコレクションについて次のように書いている。
[リリース]
そのワーカーは、人の波にさらわれることなく、迷いもなく目的地に向かって歩く。それは夕刻、あるいは空は最も暗く、時には雨さえ降っている。必要な懐中物と共にゆく帰路は、昨日と同じで、明日も同じ。時間の経過を受けハリがあったはずのシャツはよれ、ネクタイは緩み、袖はめくりあがっている。身体は疲れを訴える。「早く帰りたい」と心は叫ぶ、「ゆっくり寝たい、休みたい」と願う。が、やはり、ワーカーの足取りには迷いはない。すでに、生きる活力を見出している。凛然としたそのワーカーのシナリオにある矛盾を乗り越える少しの勇気と些細な幸せが、心の疲れを昨日に置いておき、また同じの新しい今日を歩かせる。
休息への渇望。忙しない日常からの逃避。人々と共有できるであろうそれらのシンプルで純粋な感情が、2025年春夏コレクションの出発点にあったと山岸慎平は話します。主観で見出されたリアリティをコレクションに昇華させていく彼にとって、実際にデザインを介して胸中に広がったのは、働く人々の汗や、その姿にある「現実そのもの」であったと言います。「家族や恋人、自分の願望や欲求、幸福、護りたいものや自分の夢のために働くすべての人々の存在は、デザインに少しばかりの前向きな茶目っ気を与えてくれました」
デザイナーは、オフィスワーカーから現場作業員、身近な暮らす家の管理人に致るまで、働くすべての人たちが労働を終え、帰る姿を想像していきます。「いつも通りに帰宅する」。しかし、例えば、家で待つパートナーとのひと時のために花やワインを買ったり、娘のために大好きな100円のラムネを買って帰る。「何気ない時間には、等身大で、極上の幸せが宿っているのではないか」と自問しながら、「そのことを自覚すると、途端に、疲れ切って気の抜けた後ろ姿には作りものではない真似が出来ない美しさが宿っているのです」と話しました。
2025年春夏コレクションのパターンに込めたムードは、ブランドのシェイプを下敷きとして、「働くものたち」の装いの瞬間をとどめた形状として形作られています。ストラップで固定できるシュリンクした袖元や、成り行きに逆らわない自然なヘムラインは、基調となるセットアップやしなやかなシャツと共生することで、シックな厳格さと気取らない姿が交流するユニークなシルエットを描きます。これまで以上に軽妙な山岸のウィットは、就業の音を奏でる小さな鐘、観るものの直感に委ねた楕円のテキスタイル、重厚なバックルを備えたアソートのベルト、休息を望む心を表した羽などの立体化したモチーフを通して人々の心境を直喩していきます。背筋が伸びて、まっすぐな目で闊歩するあるひとはレザーで作られた工具バックを手に、草臥れたシューズとともに忙しなく歩き回ります。こうしたブランドが志向するノンシャランな風貌は、「このコレクションは、働く人たちに向けた賛歌と共感なのだ」と話すデザイナーにとって、疲れを知り尽くした人々の内発的な魅力そのものである。「奇跡のように何も起こらない当たり前の生活を愛おしく思える心を持つ、働く人々が織りなす劇場でもある。私も、そのキャストの一員でありたい」