「直線が人間の体にぴったり合うという日本人の培った知恵の延長線上でアカデミックガウンを作ることに挑戦した。これはある意味で現代的な課題。新しいテクノロジーや数学を使って複雑な現象に対応するという、現代科学のテーマそのものを込めることで先進的な教育の象徴のようなものが出来ると思った」と語る隈研吾さん。
建築家の隈研吾さんがデザインする公立小松大学「アカデミックガウン」の完成披露記者発表が3月3日、石川県の公立小松大学中央キャンパスで行われた。隈さんが衣服のデザインをするのは初めて。3月23日、こまつ芸術劇場うらら大ホールで開催される学位記授与式で理事長・学長をはじめとする登壇者と学生代表の約20人が着用する。
2018年、地域と世界で活躍する人間性豊かなグローカル人材を育成する大学として石川県小松市に設立された公立小松大学。今回、第1期生を送り出す記念すべきセレモニーとなることから、海外の大学では卒業式などの儀礼の際に教授や学生達(たち)が着用する衣服として定着し、アカデミズムの象徴ともされているアカデミックガウンを採用。参加者がアカデミックガウンを通して大学との一体感・連帯感を抱き、見る人の記憶に残るオリジナルガウンにしたいということから隈さんにデザインを依頼した。ガウンの素材づくりを含めた製作は、地元の化学素材メーカーである、小松マテーレが担当した。
アジア人にも合う新しい形をデザインコンセプトに、新しい大学にふさわしい、新しいガウンの形状を作りたいと考えて制作された今回のアカデミックガウン。折り紙の 「包む」「折る」をキーワードに、四角い生地を折り重ね、切り込みを入れ、折り紙のように身体を包むことで、卒業というおめでたい1日を清らかな気持ちでおくることが出来るようにデザインされた。
理事長、学長、役員、来賓用のガウンにそれぞれ金、銀、銅を施し、フードは三角形の生地を扇のように折り返し、広げることで立体感を持たせた。学生用は地と同色のストライプを加え、意匠性を高めたシンプルなガウン。折り紙そのものの、無駄のない美しさを目指した。
帽子は記号的に、従来の形状を維持し、ガウン、フードと統一感を持たせるため生地をそろえ、タッセルはガウンのストライプの色味と合わせている。
また、素材は、デザインのコンセプトを表現するのに適していることから、適度なハリ感を持つ小松マテーレの独自素材「KONBU (コンブ)」を採用。素材の加工条件を調整し、最大の特長である独特な質感を残したまま、式服としてふさわしい格調と高級感のある見た目を両立させた。さらに、小松大学のスクールカラーであるネイビーを、廃棄される植物の天然成分を活用し染め上げ、自然由来の優しい色合いを持たせた。
隈さんは「繊維の街だった小松の歴史も踏まえてデザインした。最先端テクノロジーと着物の延長上にある最先端のデザインを合わせて作ることで公立小松大学にふさわしいものが出来た。形も複雑だが、展開してみると一枚の四角い布になる。一種のマジック。単純な一枚のものを折ることで豊かな表情になるという、日本人の培った折り紙の知恵も生きていると思う」とコメント。
服をデザインしたことについては「建築は人間とは関係ない大きなものと思われているが、僕たちはその中に入る人間を考えてデザインしている。服はまさに人間が主役で、僕たちが建築で目指している人間本位のデザインと同じ。今回は建築も服も同じだということを改めて実感しながらデザインすることが出来た。今回、ファッションに関係するいろいろな方たちにサポートしてもらい、作っていく中で服のデザインのだいご味も味わったし、深さも知ったので、みなさんと一緒に出来たら。また、小松マテーレとのお付き合いも10年ぐらいになる中で、建築の中にはないノウハウを教えてもらい、建築の中に反映してきたが、今回の取り組みでそれを一段階加速して、建築と繊維の持つ世界の豊かさを高められたら楽しいだろうなと思っている」などと話した。
また、モデルを務めた学生は「見た感じはゴワゴワしていますが、スーツの上に来ても似合うし、なじんでいます」、「振袖の上に着ても映えるし、撮影の時もたくさんの人に『きれい』『かわいい』と言ってもらえました」などと話した。
公立小松大学
公立小松大学は、南加賀で初の4年制大学として2018年に開学した。「生産システム科学科」「看護学科」「臨床工学科」「国際文化交流学科」の 4 学科からなる複合大学。課題解決型学修などのアクティブラーニングを積極的に取り入れ、高度な専門知識 ・能力を備え、地域と世界で活躍する人材の育成を進めている。教育研究や学生の課外活動を通して、地域の人々や企業などと連携を深め、地域の課題解決にも積極的に取り組んでいる。